2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

キュレーターズノート

福岡市美術館リニューアル事業/「成田亨 美術/特撮/怪獣」/「古川吉重 1921-2008」

山口洋三(福岡市美術館)

2015年05月15日号

福岡市美術館リニューアル事業

 福岡市美術館は、来年8月末をもって一時休館し、約2年半のリニューアル工事に入る。1979(昭和54)年の開館から36年を経過した当館施設は、空調機器や展示室設備が相当老朽化しているため、2016年9月からリニューアル工事を行なうのである。
 2005年に改修話が持ち上がってはや10年(はあ〜)。それ以前から設備の老朽化は明らかだったので、リニューアルまではいかなくとも部分的な修理くらいはやっていてよかったんじゃないかといま振り返って思うのだが、なにせお金の掛かること。ものすごく壊れていたわけではないので空調も照明も展示室の壁もずっとそのまま。新設の美術館ならばしなくてもいい苦労や工夫をしながらさまざまな展覧会を開催してきた。そのぶん工夫の知恵だけはついたようなつかないような?
 さて当館リニューアル事業は、実施設計・工事、そして再開館後15年間の運営を民間事業者に委ねるPFIという手法をとる。そのための図面や要求水準書等は4月に公示され、現在福岡市のウェブサイトで見ることができる。……まあ見てもちょっとアートスケープ読者には資料が膨大すぎるかもしれないけれども、リニューアル後に当館がなにを民間事業者に求めているかがわかる(かもしれない)。おかげで、最近は比較的新しいミュージアムを訪問すると、ほとんど壁と天井と床とガラスケースと、さらに広報物を見ているという有様(笑)。そこで改めて思うのだが、前川國男設計の当館は、さすがに時代を感じさせる内装デザインではあるものの、躯体構造はじつにしっかりとしており、各部材は高級なものが使用されていることがわかる。いまの自治体の財政状況ならば、現状と同クラスの建物を新築することなどほぼ不可能だろう。常滑焼の打ち込みタイルによる外壁は、2005年の福岡県西方沖地震によるひび割れがわずかに(あまり目立たない箇所に)見られるだけで、開館の頃と遜色ないことは、あらためて驚かされる。昭和を感じさせる内部デザインは、あと20年くらい経つと逆に新鮮にみえるかもしれない(?)。このリニューアルの進行状況は、機会あるごとにお知らせしたい。

成田亨 美術/特撮/怪獣

 「成田亨 美術/特撮/怪獣」展は、最終会場である青森県立美術館にて巡回開催中。天井の高い特徴的な空間で、成田亨の作品がじつに映える。特に《鬼モニュメント》は、天井高を利用して、企画展示室の中央に展示。1メートルほどの高さの台座が追加されており、大江山のオリジナルの雰囲気が出ている。いずれのコーナーに行くにも、この鬼の彫刻の傍を必ず通ることになるため、晩年の代表作を起点に、成田の各仕事を参照することになる。ウルトラ関係は、驚異の4〜5段がけ(!)で、一部屋に凝縮。一つひとつを鑑賞するには不便だが、その「量」と「多様性」を一覧するには都合がいいし、彼の全生涯において「ウルトラ」はわずか4年足らずのことでしかない。そう考えればこうした展示もありえるし、そこは所蔵館。今後の常設展でじっくり観覧できる機会があるはずである。
 会場外には、マニア垂涎の「車」が鎮座。そう、「ウルトラセブン」に登場するウルトラ警備隊専用車「ポインター」である(イにアクセント。学会発表とかで図表を指し示すために使う光るアレ、じゃないよ)。もちろん本物ではなく、城井康史氏による精巧なレプリカだ。しかしレプリカといっても、ベース車両には劇中のオリジナルとほぼ同じクライスラー・インペリアルを使用。実際に車道を走ることができるが、そのためには車に相当のメンテナンスが必要だ。手間とお金が掛かっている。今回の青森巡回にあわせ、城井氏がなんとネットで寄付金を募って千葉から青森まで自力輸送! 一体なにがそこまでさせるのだろうと一般美術ファンには「理解不能」の4文字がただちに頭に浮かぶのかもしれないが、文化財の保存・修復を自力でやっていると置き換えればたちまちその4文字は「賞賛」とか「尊敬」に置き換わるはず(もちろん私ははじめから賞賛と尊敬です)。「ポインター」を見て文化財の保存管理とはなにかを思わずにはいられない(キュレーター的な自問)。「館長庵野秀明 特撮博物館──ミニチュアで見る昭和平成の技」(現在、熊本市現代美術館に巡回中)に出品されたとしてもおかしくなかった。
 成田は、「セブン」では宇宙人だけでなくメカニックのほとんどすべてをトータルにデザインしており、「ポインター」はその代表格である。ただしこれも、ウルトラマンのマスクデザイン同様に決定稿デザイン画が存在しない。つまり、途中まで紙の上でデザインをして(この原画は現存し今回展示されている)、それからは実際に工場でパーツの形状を考えながら形にしていったわけで、その意味でこの「ポインター」は、成田展においてオリジナル原画と変わらない価値を持つ。


左=《鬼モニュメント》は、台座でかさ上げ。迫力が増した
右=「ウルトラ」の展示コーナー


左=1970-90年代の絵画を集めた部屋。壁面にガルバリウム材。成田作品にはメタリックが似合う
右=城井康史氏による「ポインター」(レプリカ)

 そのほかにも、青森の展示写真を収めたドキュメントブック(通称「薄い本」)が超特急で制作され、青森県美のショップと(なぜか)モデルカステンで販売中。これ福岡でも出したかったなあ。工藤健志学芸員ならではのアイデアはほかにもいろいろ(こういうアイデアはかなわないです、ほんと)。
 3会場の共同企画による巡回展となった成田亨展。準備期間は恐ろしいほど短かった(笑)にもかかわらず、最大の成果を上げることができた。アマゾンで何度かベストセラーとなった作品集は、美術館連絡協議会の「カタログ論文賞 優秀カタログ賞」(美術館表彰)を受賞した。私自身でいえば、2011年の「菊畑茂久馬 回顧展──戦後/絵画」以来2回目の受賞。工藤学芸員は今回「美少女の美術史」展で美連協奨励賞(美術館表彰)も受賞したから、W受賞。すばらしい。4月12日の成田流里氏・カイリ氏のトークショーのおり「700点もの作品が並ぶ展覧会は非常識。その非常識が目の前にある。それは3館の学芸員のおかげで実現できた」とおっしゃってくださったことには泣けました(本当)。この展覧会企画に私が参加できるきっかけを下さった富山県美の三木敬介学芸員と工藤学芸員には心よりお礼を申し述べたい。


左=青森展限定の「ドキュメントブック」(薄い本)
左=『成田亨作品集』(羽鳥書店、2014)

成田亨 美術/特撮/怪獣

会期:2015年4月11日(土)〜5月31日(日)
会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

古川吉重 1921-2008

 さて再度福岡にもどり、前回の私の記事(2月15日号)の締め切りには間に合わなかった「古川吉重 1921-2008」展をレビューしておきたい。1921年福岡市に生まれ、東京芸大で学び、独立展に出品して頭角を現わしたが、1963年、40歳を超えた頃、国内に家族を置いたまま渡米。以後2000年までニューヨークを拠点にし続けた。その覚悟たるや、いまの感覚ではなかなか想像が及ばないが、滞米中は苦労も多かったことだろう。独立展のころはクレーに影響を受けた作品が散見されるが、渡米後はミニマル・アート、ハード・エッジの影響を受けた抽象絵画に転じ、ゴム素材などを使った時期もあったが基本的には油彩による抽象絵画を制作し続けた。福岡県立美術館のほか、福岡市美術館、北九州市立美術館、そして国立国際美術館や埼玉県立近代美術館にも所蔵されている。
 展覧会は、戦前期のスケッチから独立展時代の作品、そして渡米直後の作品から晩年までの展開を年代順に紹介するオーソドックスな回顧展である。作風に劇的な変化が少なく、また作家の人生の起伏も、(少なくとも年譜の上では)渡米前後以外にあったわけでもない。作品のよしあしとは別次元で、こうした画家の回顧展は簡単なようでじつは難しい。展示が単調になりがちだし、具象イメージの復活著しい昨今の絵画状況のなかで、あえて画家が「抽象」を選んだことの必然性が、一般観客に伝わりにくいからである。そうはいっても、古川の作品の展開は、絵の表面には表われないとはいえ、やはり彼の歩んだ人生、生き方と相即であるように思える。1980年前半の絵画は画面も大きく、多作であり、生涯でもっとも脂ののりきった時期。そこには作品のスケール感の再現がどうしても必要で、そこに、「どういった心境でこの作品を描いたのか」という問いへの回答も含まれていくような気がする。
 しかしそれを表現するためには、福岡県立美術館の施設はすでに限界に来ているだろう(もうあえて言っちゃいますね)。各種設備面はいうにおよばず、いちばんの問題はやはりその手狭な面積。2005年に長崎県美術館が開館し、2007年に沖縄県立博物館・美術館が開館。そして今年4月には大分県立美術館も開館した。いま九州内の県立美術館を比較したとき、福岡県美がもっとも手狭で施設的に老朽化した館となってしまったことは否めない。今年初め、福岡県知事より、福岡県美の移転に関して有識者会議で検討することを表明し、その移転先には大濠公園エリアも視野に入っているそうだ。もしそれが実現すれば、大濠エリアに二つの美術館が存在することになる。利便性からすればこれは歓迎されることだし、例えば「福岡現代美術クロニクル1970-2000」のような共同企画展の開催も容易になる。いい方向に進むことを期待したい。九州エリアの文化施設は、ひとつの時代の区切りを迎え、新しい段階に入りつつあるのかもしれない。


古川吉重「L14-2」1993年、油彩・画布、個人蔵

古川吉重 1921-2008

会期:2015年2月7日(土)〜2015年3月15日(日)
会場:福岡県立美術館
福岡市中央区天神5丁目2-1/Tel. 092-715-3551

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