2020年08月01日号
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キュレーターズノート

「村上隆の五百羅漢図展」「村上隆のスーパーフラット・コレクション展」

山口洋三(福岡市美術館)

2016年02月15日号

 森美術館で「村上隆の五百羅漢図展」を見た。カタールからの《五百羅漢図》だけが出品されているのかと思いきや、新作含む大型の絵画、彫刻も40点近く出品され、まさに大規模な個展だ。さらに今年に入り、横浜美術館で「村上隆のスーパーフラット・コレクション展」も開幕。前者の最終日である3月6日までに関東方面に旅行する予定がある人は、この二つの圧倒的な展覧会をぜひ観覧してほしい。

 さてその展覧会そのものについては、じつは『西日本新聞』紙上で書くことになっているため、ここには書かない(すみません)。その代わり、この二つの村上展を見て、美術館運営の観点から考えたことを記しておきたい。
 国内の、とくに地方美術館の多くは予算縮減を迫られさまざまな面で苦境にあると思う。福岡市美術館とて例外ではない。しかし、こうした状況が長く続くことで、これをどうしようもない、当然のことと思い込み、次第に発想が枠にはまりつつあるのではないかと、森美術館と横浜美術館の2会場を見終わって、かなり反省させられた。
 まずいずれの展覧会も、美術館内での展示とはいえ、極めて規模が大きい。しかも個展である。これほどの規模の個展といえば、「大竹伸朗 全景」(東京都現代美術館、2006)以来ではないか。「全景」にもかなり圧倒されたが、今回の村上展における全長100メートルの《五百羅漢図》は、まさに圧巻としかいいようがない。中東のカタールからこの作品を梱包、運搬するのに、どれほどの手間と輸送費が必要だっただろう? この作品は、埼玉県三芳のスタジオで制作されているから、日本〜カタール間の輸送にはノウハウがすでにあると思われるが、それにしても、である。そして40点ちかい新作は、その仕上げのレベルは《五百羅漢図》以上で、尋常ではない。村上の作画力もすばらしいが、そこに投入された技術は見る側の想像を遥かに超えている。作品に妥協を許さない村上の姿勢が見て取れるのだが、展覧会の主催者側の観点に立てば、これだけの新作を依頼するとなると、制作に多数の人員が投入されているはずで、その時間とコストもまた大変なものになるに違いない。新作といえども、作品によっては《五百羅漢図》に負けない大きさのものすらあり、総額で億単位のお金がかかっていると推測される。
 横浜美術館での彼のコレクション展もまたすさまじい。その作品の数量、時代やジャンルの幅広さに驚いた。アンゼルム・キーファーの作品に代表される、スケールの大きな立体作品も多数あり、ここでもまたその輸送と展示作業のコストの膨大さを思わざるをえない。

 展覧会がすべて、今回の2展覧会のように、スペクタキュラーである必要はないとはいえ、この二つの展覧会は、近年の日本の現代美術展の規模を圧倒し、欧米の主要美術館での大規模な展覧会に匹敵する。筆者自身、2007年の「大竹伸朗展 路上のニュー宇宙」(福岡市美術館、広島市現代美術館を巡回)、2011年の「菊畑茂久馬回顧展 戦後/絵画」(福岡市美術館と長崎県美術館で共同開催)、2014−15年の「成田亨 美術/特撮/怪獣」(富山県立近代美術館、福岡市美術館、青森県立美術館を巡回)の企画を通じて、作家に見合う展覧会規模について考えたことがあった。その折に念頭にあったのは、ニューヨークやロンドンの美術館で見る、主要作家の回顧展の規模、図録の充実ぶりであった。箱(展示室)、予算の制約を超える方法はなにかないのか? 共同企画や巡回がまず頭に浮かぶが、それでももっとも手強いのがコストだった。
 現在の日本の状況下で、億単位のお金を拠出している展覧会といえば、大手マスコミが主催し、東京都美術館や国立新美術館を立ち上がりにして国内1,2箇所を巡回する欧米の有名作家や美術館所蔵品展であろう。現在福岡市美術館で開催中の「モネ展」もまさにそうである。こうした展覧会では、輸送コストや貸出にともなう相手美術館へのギャランティなどの経費を、大量動員による観覧料収入で補う。つまり、日本の観覧者のお金が、海外に出ていっている。
 最近、五百羅漢図展の観覧者数が20万人を超えたと聞いた。おそらくそのくらいのお客さんが入らなければ、これほどの規模と質の展覧会の開催にかけた経費を回収することはできない。この数字は地方では(本当に)ありえないので、東京ならではの数字だと思う。東京の中心的な美術館には、こうした展覧会をどんどん開いて欲しい。なぜなら、そうした美術館こそが、日本を代表する美術館と、国外の旅行者、関係者から見なされるからである。
 その一方でこうも考える。つまるところ、年間2億円程度の展覧会予算が、つねに、とはいわないが、2,3年に一度でも準備できるのなら、国内のみならず、海外の美術館に引けを取らない企画が可能になるのではないか。「そんなのありえない、無理」と同業者からの批判がとんできそうなのだが、しかし、現状の枠にとらわれず、発想を豊かにすることが、いまわれわれにとって重要なことなのではないだろうか(なんか説教くさくなったね、今回)。

村上隆の五百羅漢図展

会期:2015年10月31日(土)〜2016年3月6日(日)
会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階/Tel. 03-5771-3835

村上隆のスーパーフラット・コレクション展

会期:2016年1月30日(土)〜4月3日(日)
会場:横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1/Tel. 045-221-0300

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