キュレーターズノート

「視点を変えてミる」──中学生キュレーターたちと展覧会を企画する

橘美貴(高松市美術館)

2019年03月01日号

毛利直子氏(高松市美術館学芸員)の後任として四国エリア担当となった。初回となる本稿では、筆者が企画した「中学生キュレーター」について、立ち上げた理由や、プログラムの内容、展覧会の反響などを紹介したい。 高松市美術館は2018年で開館30周年を迎え、記念事業などを通して館の歴史を振り返ってきた。中学生キュレーターは30周年の締めくくりとなる第4期常設展を企画するプログラムを通して、未来に目を向ける企画として実施した。

中学生キュレーター立ち上げまで

中学生キュレーターは昨年の6月にメンバーを募集し、7月から5回のプログラム(実際には台風の影響で4回になった)を経て、翌年1月に始まる第4期常設展の1室(現代アート)を企画するというものである。その目的は大きく分けて二つあった。ひとつは、学芸員ではない目でコレクションを見てもらうことにより、それまでにない新しい見方をすることだ。そして二つ目はいまの中学生が何を考え、私たちに伝えたいと思っているのかを提示することだった。

中学生キュレーターを立ち上げるにあたっては、メンバーが個人として自主的に参加することを重視した。

学校と連携してプログラムを行なう美術館は多く、当館でもしばしば教育現場と連携し、イベントや展示を行なってきた。2017年度春に開催した「絵本のひきだし 林明子原画展」では、二つの中学校美術部と連携し、子ども向けのイベントやギャラリートークを行なった。学校や部活動と連携した場合、チームワークを生かしたスムーズな活動ができ、大人数による大規模な企画が可能なこと、部室などで手軽に準備を進められるといったメリットがある。その一方で、メンバーは常に「生徒」であり、「授業だから」「先生に言われたから」仕方なく参加しているという姿勢を見せる生徒も少なくない。特に短期間のプロジェクトでは、生徒全員と距離を縮めることは難しく、先生を通して生徒たちとやりとりをする場面が多くなってしまうことも「生徒」としての意識を強めてしまう原因のひとつだったと感じている。

そこで、中学生キュレーターでは、メンバーと密なやりとりする必要があったため、個人的に応募してもらうかたちを取った。応募条件は、美術や展覧会、学芸員に興味のある中学生であることと、全5回のプログラムに参加可能であることとし、応募用紙には「参加したい理由・参加してやってみたいこと(100字程度)」を書いてもらった。

実際にどのようなメンバーが参加したのか紹介しておくと、メンバー6名のうち、1年生は3名の女子、2年生は男女1名ずつで2名、3年生は男子1名だ。全員が市内の中学校に通っていたが、ほとんどが別々の学校の生徒だった。募集をする際には、友人同士での応募もあるだろうし、それは問題ないと考えていたが、そのような応募はなかった(2名だけ同じ学校の生徒がいたが、オリエンテーションで会うまでは互いに応募していたことを知らなかったらしい)。

プログラム始動。そして、こたつの登場

プログラムは下記の通り。

1回目 オリエンテーション 2018年7月15日(日)
2回目 レクチャー(1) 2018年7月29日(日)
3回目 レクチャー(2) 2018年8月26日(日)
4回目 ミーティング(1) 2018年9月16日(日)
5回目 ミーティング(2) 2018年10月21日(日)

日々の勉強や部活動、習い事などに追われる多忙な中学生の参加しやすさを考慮した。全5回のプログラムでメンバーたちには、美術館や学芸員の仕事、展覧会についてのことを伝え、高松市美術館のコレクションに関する知識を深めてもらいながら、常設展の企画を進めていった。

夏休み前のオリエンテーションは自己紹介から始め、プログラムの概要説明を行なったのち、常設展を見に行った。自由に作品を鑑賞しながら、半年後に自分たちがこの展示室で展覧会をキュレーションするという点を意識してもらう。それに続く2回のレクチャーでは、アートカードやコレクション選集を用いて、高松市美術館所蔵の現代アート作品についての知識を深めた。特にアートカードでは、同じ作品でも人によって感じ方が異なるということが印象的だったようで、その経験が後で述べるように展覧会にも生かされている。

レクチャーの様子

レクチャーの途中で、それぞれどんな展覧会をしてみたいかと訊ねたところ、「展示室にこたつを置いて、そこから作品を見てもらいたい」という意見が出てきた。発案したのは1年生のメンバーで、くつろいだ状態で作品を見てもらいたい、それにはこたつを置くのがいいという意見を発表してくれた。はじめは全員が驚いたが、話し合いを進めていくうちに、このアイデアにほかのメンバーがついていくかたちとなった。

台風の影響で、二度予定されていたミーティングは1回きりとなったが、レクチャー中にも話し合いは進んでいたので、それほど影響はなかった。10月の最終回では、こたつからぜひ見たいと希望のあった奈良美智《Milky Lake》が展示中だったため、メンバーは展示室の床に座って作品を見上げた。こたつに入って見るとどういう目線になるのか、どれくらいの距離が必要なのかを実感することとなる。その後、こたつから見るためのほかの展示作品を収蔵品図録を参考にしながら話し合った。こたつからくつろいで鑑賞できることがポイントだったため、大きく、落ち着いた色調の作品であることが条件である。《Milky Lake》のほかには、押江千衣子《ツヅク》や岡田修二《水辺33》などが選ばれた。

また、こたつを置くことがどのような効果をもたらすか、という話も出た。まずはくつろいで作品を見てもらう、という当初の目的がある。次に、彼ら自身が実感したように、目線をいつもより下げることで作品の見え方が変わるということが挙げられた。さらに、それら二つのことがうまく作用すれば、こたつに入った人同士がコミュニケーションを取ることで、自分とは違った考えを知ることにたどり着くのではないかという結論に至った。

こたつにこだわる一方で、「作品の見方は人によって異なる」というメッセージを展覧会に組み込みたいという意見が多く出た。それはアートカードを使ったゲームや、展示室で過ごした時間を通してそれぞれのメンバーが感じていたようである。そのため本展は二部編成とし、こたつから作品を眺める第一部と、作品の制作背景や作者の考えを知るとより鑑賞が深まりやすいと考えた作品を展示した第二部を設けた。第二部には池田龍雄《ショーバイⅡ》や内藤礼《死者のための枕》などを展示している。

プログラムを終えて

さて、肝心の展覧会は今年の頭から始まり、現在も会期は続いている(2019年3月13日(土)まで)が、その反響がどうかというと、中学生による企画を楽しんでくださっている方が多いように思う。初めてこたつを目にしたときには驚くだろうが、企画内容を受け入れて、すんなりとこたつに入る人が多い。また、メンバーの考えていたとおり、こたつから作品を眺めると、作品の表情はガラッと変わる。展示作品を落ち着いた色調のものにし、まったりとした時間を過ごせる空間を心がけたことも効果的だったようだ。さらに好評なのが、メンバーが1人1点ずつに付けたコメントである。これは、いまの中学生が何を思ってこの作品を展示したいと考えたのか、生の声を伝えるために書いてもらった。作品解説のキャプションではなく、感想文に近いコメントを読むことで、6人の見方を来場者にも共有することとなる。

中学生キュレーターが企画した第4期常設展 展示室1「視点を変えてミる」の様子


展覧会は始まったが、プログラムはまだ完全には終了していない。最終回で彼らが考えていたのは、どのような展覧会にするかということと、どうやってお客さんに来てもらうかということだった。広報やメディアとの連携、関連イベントの企画、カフェでの特別メニューなどにまで考えを巡らす姿にこちらが驚いてしまった。幸い、この企画は以前からFM香川に関心を持っていただいており、連絡してみたところ彼らの出演を快諾していただいた。

1月6日(日)、冬休みの宿題が終わっていないと話すメンバーが展示室のこたつに入ってマイクを向けられている様子は、何ともおかしなものだった。緊張していたのははじめだけで、話し始めると丁寧にプログラムを振り返り、展覧会の構成について話していた。ほかにも新聞社の取材を受けたメンバーもおり、しっかりと広報の仕事もこなしている。また、3月2日(土)のギャラリートークへの参加希望もあり、直接彼らの言葉を観覧者に届けることができればと計画中だ。

取材に答える中学生キュレーターたち

こうして振り返ってみると、メンバーは作品や展覧会と真摯に向き合っていた印象が強い。どんな作品をどうやって見てもらうのかを意識しながら、意見を出し合い、ときには譲り、ひとつの展覧会を開催した。それぞれ関心を持つ点は異なっていたが、「くつろいで鑑賞してもらうこと」「人によって作品の見方が異なることを楽しんでもらうこと」という大きなテーマが出来上がると、それに沿った構成を練ることができた。彼らの意図はこたつという装置やコメントからも鑑賞者に伝わっていることと思う。

高松市美術館 2018年度第4期常設展
〔常設展示室1〕中学生キュレーター企画「視点を変えてミる」
〔常設展示室2〕日本工芸会と香川の作家たち

会期:2019年1月5日(土)~3月31日(日) ※ただし、常設展示室1は3月13日(水)まで
会場:高松市美術館(香川県高松市紺屋町10-4)
公式サイト:https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/museum/takamatsu/event/exhibitions/exhibitions/da/da_2018_04.html