2022年08月01日号
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キュレーターズノート

2009年1月の福岡/21世紀の作家──福岡 bis 2009

山口洋三(福岡市美術館)

2009年02月15日号

 福岡市美術館では、福岡の若手作家3人を取り上げた「21世紀の作家──福岡 bis 2009」を開催中(後述する学芸員レポートで紹介)だが、ちょうどこれに呼応したかのように、30歳前後の作家たちの力のこもった展覧会が福岡市内および近郊で相次いだ。せっかくなのでここでいくつか紹介しよう。こうした個展は新聞記事になるものは少なく、ましてやブログなどで詳述する奇特な人もいなさそうだ。ああ、あったねえで流すのはもったいない、2009年1月の福岡。しかしこんなローカルなレポート、需要あるのか??

冨永剛「ひとんぎ」アートスペース貘、1/5~1/23)

 1972年生まれ。コンクリートや砂、竹などの素材を用いた骨太なインスタレーションでいつも驚かされる。今回の作品は、昨年熊本市現代美術館での「ピクニックあるいは回遊」展にて出品した土壁のインスタレーションのバリエーション。L字の壁面を狭いギャラリースペースに立て込み、半閉鎖空間を制作している。画廊入口からは白い壁面しか見えないが、狭い通路を通って内側に回るとひび割れた土壁が迫ってくる。その土壁には無数のひび割れが入っている。題名は《ひとんぎ》。熊本(冨永の出身地)で棟上げ式の折に屋根から蒔く餅のこと。冨永剛は、自分のルーツを相当の力仕事でたぐり寄せようとする。土着性をかいま見せつつ、どんな空間にでも介入する大胆なセンスには毎度ながら感心させられる。といいつつ、彼も30代後半に入りつつあるから、そろそろ劇的な展開が必要になってきたのではないか。

山内光枝「波図 ATLAS」(M.C.APERTO、1/7~1/16)

 1982年生まれ。築年数の経過した民家の襖によるインスタレーション《波図 ATLAS》。表面をはぎ取り、襖の中身を露出させ、そこをなぞるように年輪のような線が鉛筆で無数に描き込まれている。その線描は床面にもおよび、全体として時の堆積と人の気配をテーマとしていることが了解できる。こうした「時」との不意の出会いは、若い作家の好奇心をくすぐるのだろう。鉛筆書きの行為は労作で、元々存在している「時の堆積」に、さらに作家の手により波動を加え、自分自身もこの時の堆積のなかに加わっていこうとする行為か、あるいは自分自身とは遠く離れ想像もつかない匿名の人間の過去の痕跡をたぐり寄せる行為といえるだろうか。しかし、本作品においてこの「ひそやか行為」は、確かに手間と時間はかかっていることはわかるが、それほど「主役」になっておらずやや物足りない気がする(ひそやかだからそれでいい、と作家はいうだろうけど)。自分自身の行為の堆積とすでに存在する時の堆積との関係性を、もう少し詰めてみたらどうだろうか。過去の時間が奇妙にねじれて現在に接続してしまうような力業を期待したくなる。

三輪恭子(ギャラリーまいづる、1/13~1/24)

 1982年生まれ。木製の不思議な機械の立体作品《empty navigation》ほか、関連のドローイングを出品。卵のような小さな立体物が、起伏のある将棋盤のようなものに付着している。その床下(?)には、木の歯車により回転装置が組み込まれている。この装置により、歯車のこすれ合う音とともに、卵のような物体(作家によれば、それはカモメの姿にヒントを得たものなのだという)が回転する。この作品では、上面で回転するカモメの立体よりも、下部の、半分剥き出しにされた歯車の回転装置にどうしても目がいき、上面のファンシーな雰囲気と装置の無骨さのギャップの意味を考え込んでしまう。仕掛けが大袈裟なわりに動きが単調すぎるのだ。藤浩志風にいえば、適正技術がともなっていないといえようか。日常の何気ない風景に対する親密感が制作の根底にあることを知ると、なおのことその思いを深くする。日常世界に対してなにか「届かない」ものが本当は根底にあるのではないか。それを深く見据えることをしたほうがいいのではないか。

高田麻衣子「うつくしい世界のために」(須恵町久我記念美術館、1/9~1/27)

 1978年生まれ。2003年の「福・北 美術往来」では赤い糸と透明の糸によるインスタレーションを見せてくれたが、その後あまり発表を見かけなくなった。この個展は久しぶりの発表になる。閉じた空間にひそやかな雰囲気の展示を行なう。古いカーテン生地を美術館のガラスケースに入れ、そこにキノコのオブジェを配して小さな世界を現出させている。その他、電球と、ビーズ、ビー玉によるインスタレーション。個展の題名は「うつくしい世界のために」となっている。古い布地を使っていること以外は基本的に2003年のころと余り変わらないように見受けられた。空間をもてあましたような感じは否めず全体に緊張感がなく、やや残念な印象。

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