キュレーターズノート
むこうのさくら
鎌田享(北海道立近代美術館)
2009年03月15日号
北海道の東部、十勝管内士幌町に「佐倉」という地区がある。この地には、明治末期から大正初期にかけて、旧佐倉藩(現在の千葉県佐倉市にあった藩)の藩主・堀田家の働きかけで開拓団が入植した。約1,200キロ離れた北海道の佐倉と千葉の佐倉は、歴史的なつながりを持っているのである。今回はこの二つの佐倉を結んだアート・プロジェクトを紹介する。
企画者は北海道倶知安町在住のアーティスト磯崎道佳。士幌町立佐倉小学校と佐倉市立佐倉小学校はともに堀田家ゆかりという起源を持ち1992年より交流を続けてきた。この二校を窓口に、児童や地域住民を巻き込んだワークショップを相互に実施することで、二つの地域の交流を活性化させようとしたのである。
一連のワークショップは昨年7月に北海道でスタートした。士幌の小学生たちは北海道の星空から発想を広げ、ミラーボール状のプラネタリウムを共同制作す
る。この作品は千葉県に送られ、10月に佐倉市立美術館のエントラス・ホールで展示される一方、佐倉市の小学校では「はなサイコロ」が制作された。透明ビ
ニールを貼り合わせて中に人が入れるほど巨大な(一辺7メートル!)立方体状の風船をつくり、その周囲に地元の草花をかたどった色紙を貼ったものである。
さらに12月には北海道でも同じく「はなサイコロ」をつくるワークショップを開催。そして今年1月、北海道士幌町佐倉地区の小学生や住民が千葉県の佐倉小
学校を訪れた。この機会にそれぞれの佐倉でつくった二つの「はなサイコロ」を膨らませ、二校の児童が一緒になってそれらを転がし遊びながら、交流を深めた
のである。
磯崎は「体験と発見」をキーワードに、ワークショップやアートイベントを実施してきた。アーティストによるワークショップは、いまや全国各地で花盛りとい
う感を抱くが、磯崎はこのようなアートのあり方に、もっとも早い時期から意識的に切り込んでいった一人である。そして磯崎が行なう一連のプロジェクトの特
徴は、いい意味での子どもっぽさにある。
使う道具を見てみると、紙と鉛筆とハサミとノリと……もちろんそればかりではないのだが、特殊な材料や機材は必要としない。そしてつくられるものも、ミ
ラーボールに巨大な風船と、これまたどこかで見たことのある(あるいはかつて夢見たことのある)かたちをとる。子どもの遊びの延長線上に、磯崎のワーク
ショップは設計されているのである。
ワークショップには、資質や関心の異なる不特定多数の子どもたち(そして大人たち)が参加する。この多様な参加者たちを結びつけるブリッジとして、磯崎のワークショップが持つ「子どもっぽさ」は不可欠な要素なのである。