キュレーターズノート
むこうのさくら
鎌田享(北海道立近代美術館)
2009年03月15日号
ブリッジといえば、「むこうのさくら」プロジェクトは二つの土地をアートで架橋したものといえる。士幌の人々は、自らの地区のルーツとして佐倉市や堀田
家に深い愛着を抱いている。しかし一方の佐倉市側では、多くの住人にとって士幌への入植は忘れられた歴史の一コマだという。約50世帯の緊密なコミュニ
ティと、68,000世帯を超え絶えず住人の変化する都市とでは、この温度差もむべなるものではある。今回のプロジェクトは、ややもすれば埋もれかねない
二つの地域の交流に、新たな活気を吹き込む契機になったようである。
アートによって街を活性化させる、アートが街中に飛び出すといったプロジェクトは、この数年各地で盛んに行なわれてきた。それらの試みは、アートの社会
的役割を押し広げるとともに、アーティストたちに新たな活動の場と方向性を提示し、美術関係者の注目を集めている。そしてこうした試みはまた、地域活性化
の起爆剤として行政担当者や地域住民から熱い期待を集めるようになってもいる。
しかしこの期待感が過度に高まった場合、プロジェクトの成果やアートの効能ばかりが取りざたされるようになった場合、アート自体が隘路にはまり込んでし
まわないかという懸念も抱く。アートが地域の価値を見出す「きっかけ」となったり、地域住民のコミュニケーションを高める「端緒」となることは、可能であ
ろう。アートは社会の動きを反映しながらもその動きの外側に立ち、社会に対するある種の批評性を示すことができる。しかしアートが過度な社会的機能を担わ
されるとなると、批評性というアートの今日的資質は担保しうるのだろうか? また、現代の社会は性急な成果を求めすぎるきらいがある。アートによる街おこ
しが不調に終わったとき、それがすなわちアートに対する不信感につながらないとも限らない。
「むこうのさくら」プロジェクトが今回一定の成功を収めたのも、それ以前の交流があったからこそである。「アートによって橋」をかけるという言葉は、美
しい。しかし両岸が離れすぎていたり、高低差がありすぎたりしたならば、そもそも橋をかけることはかなわない。そんな気がしている。
「むこうのさくら」プロジェクト
1──《星空交換プロジェクト》
会場:北海道士幌町/士幌町立佐倉小学校
会期:2008年7月24日(木)〜8月2日(土)
2──《はなサイコロ〜佐倉市バージョン》
会場:千葉県佐倉市/佐倉市立美術館、佐倉厚生園記念館・さくら庭園(旧堀田邸)
会期:2008年10月25日(土)、26日(日)
3──《はなサイコロ〜士幌町佐倉バージョン》
会場:北海道士幌町/士幌町立佐倉小学校
会期:2008年12月8日(月)〜19日(金)
4──《佐倉交流》
会場:千葉県佐倉市/佐倉市立佐倉小学校
会期:2009年1月15日(木)
主催:財団法人北海道文化財団、佐倉市立美術館
協賛:山高化成商業株式会社、フォルクスワーゲン グループ ジャパン株式会社
後援:士幌町教育委員会
企画:磯崎道佳
運営・コーディネート:AISプランニング