2020年07月01日号
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キュレーターズノート

混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバル2009

山口洋三(福岡市美術館)

2009年05月15日号

 本サイトでもすでに紹介されている別府の「混浴温泉世界」。現代美術作家の山出淳也が、縁故も伝手も乏しい街に飛び込み、4年以上の歳月をかけて組織づくりから人間関係の構築までこなしてようやくこぎ着けた国際芸術祭だ。この芸術祭にかける山出の思いや意気込みは、すでに本サイトの久木元拓氏の記事や、別のサイトなどでも紹介されている。ここでは「混浴温泉世界」の中心となる展覧会「アートゲート・クルーズ」について書いてみたい。

 「混浴温泉世界」がついに幕を開けた。この芸術祭を仕掛けるにあたって中心的な役割を担い、別府市内で地道な活動を続けてきたNPO法人「BEPPU PROJECT」の活動の一端は、本サイト2007年1月号掲載の拙稿にて紹介したことがあった
 記事内容は2006年末のものなので、それから2年半ほどの年月が経ったことになる(このときは、2008年開催とされていた)。あのとき感じた期待と高揚を思い出しながら、別府駅に降り立った。
 湯治場であり、港町であり、観光地である別府。移住者が多く、観光客や学生らが訪問しては立ち去っていく町。それは別府を特徴づける温泉とも共通する。この「入って出ていく」は芸術祭のメインテーマの根幹をなすが、一方ではこれは、山出淳也が美術作家としてこれまで行なってきたPROJECTと題された彼の作品とも共通するコンセプトである。彼は、ある場所、ある風景の中に投げ込まれた自分になにができるかを考え、それを作品としてきた。周囲の状況がどのようなものであるかを正確に測定し、そこに居合わせる人々となんらかのかたちでコミュニケーションをとり、その見知らぬ「他者」を介して「自分自身」に出会うための行為を数多くこなしてきた。
 山出は、周りの状況を知るため、周囲の人々に「質問」を投げかける。その質問(あなたはなぜいまここにいますか? あなたの大切な場所はどこですか? など)に見知らぬ他者ひとりひとりが答えを出すことで、そこに彼らの私性が浮かび上がる。山出はそれを集めて映像や写真、文字として「放出」(インスタレーション)してきた。山出という作家が質問という行為を通じてそこになにかが生まれ、変化が起こることに彼は関心を向けてきた。
 今回山出は、まさに見知らぬ状況(別府)に自らを投げ込み、なにができるかを考え、周囲の人々と交流を重ねてきた。そしてなにかが生まれ、変化した。それはなんなのか。本展の終了後、どうやらそれは見えることになりそうなのだが、こうした彼の作品態度をまず最初に考えた場合、4年をかけて準備されたこの展覧会ですら変化の途上であり、そして次の状況を呼び込むための触媒であるという強引な見方もできる。
 しかしながら、すくなくともいままでの経緯を特に意識することなく展覧会目当てに初めて別府を訪問した鑑賞者のなかには、BEPPU PROJECT自体の活動をすべて見届けている者は、ほぼ皆無であろう。これまでの過程ではなく、いまここに見える作品はどうであったか。

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