キュレーターズノート
マーティン・クリード展
角奈緒子(広島市現代美術館)
2009年06月15日号
対象美術館
現代アートに興味をお持ちの人であれば、「マーティン・クリード」という名前を耳にしたことはあるだろう。テート・ギャラリー主催による、めざましい活躍をした現代作家に授与されるターナー賞を2001年に受賞した、ロンドン在住のアーティストである。受賞のきっかけとなった作品、《作品番号227:ライトが点いたり消えたり》こそよく知られているものの、クリードのほかの作品をどれほどご存知であろうか。この時期、クリードの過去の作品から新作までを見ることのできるチャンスが日本にある。手前味噌で恐縮ではあるが、この場を借りて、広島市現代美術館での「マーティン・クリード」展を紹介したい。この展覧会は昨秋、イギリス、バーミンガムのアイコン・ギャラリーで立ち上がった国際巡回の日本展で、広島の後は、韓国、ソウルのアートソンジェ・センターにて開催、その後ペルーへ巡回予定である。
必要最小限の要素で構成されるクリードの作品からは、簡潔さに起因するある種のいさぎよさが感じられる気がする。しかしそこに、とぎすまされた鋭敏さやスタイリッシュを装った、いきった感じは、不思議と見受けられない。
クリードの作品には、インスタレーションとして提示されながらなんらかの動きをともなうものが多い。例えば、《作品番号960》。今回の展示では入口にて観客をいざなう役割を担うサボテンたちも、目ではとらえにくいにせよ日々成長という動きをともなっている。比較的最近の作品《作品番号990》も、ある一定のスピードでカーテンが開閉するという動きをもつ。8台のメトロノームがそれぞれ異なった速さでリズムを刻む《作品番号180》も然り。生き物であるサボテンを除けば、2点とも同じ動きを機械的にくり返す。この「くり返し」こそ、クリードの作品において重要な特徴のひとつと言える。カーテン作品は、カーテンが開く/閉じる、の、そして《作品番号227:ライトが点いたり消えたり》は、電気が点く/消える、のくり返しである。日常ではほんの一瞬(あるいは一時的)にすぎない動作が執拗にくり返されることによって、作品として成立する。映像作品《作品番号837》では、身に起こるには少ないに越したことのない嘔吐という身体的反応が、ループで何度もくり返し上映される。