キュレーターズノート

マーティン・クリード展

角奈緒子(広島市現代美術館)

2009年06月15日号

 「くり返し」という形容は、他の動作、例えば「置く」ことにも適用されうる。クリードはある一定の規則にしたがって複数のものを、くり返し置いていく、つまり「並べる」という手法でも制作する。サボテンや釘は小さいものから大きいものへと並べられ、作品へと変わる。この並列が縦方向の動きになると「積み重ねる」という手法となり、タイルカーペットや箱、木の板やベニヤ板といった別の作品が生まれる。作品の構造は、いたってシンプルである。
 なにかに取り組み始めると止め時がわからなくなり、やりすぎて結局ダメにしてしまう、と自らの性質を語るクリード。彼にとって「くり返す」という行動は、執着によって無駄にしてしまうという帰結を避ける手段であり、くり返す/されるという状態こそ、自らの決断に対する不安から彼を解放する装置なのかもしれない。それゆえ、一見シンプルながらも決して冷たさを感じさせないクリードの作品には、愚直なほど真摯に「もの」に向き合い、悩むクリードの姿勢が投影されているようにも見えてくる。
 クリードの作品で、忘れてならない別の構成要素に「音」がある。自身のバンドを率い、ギターとボーカルを務めるクリードは作詞作曲も手がけるが、近年、「バンド」の域を超え、「オーケストラ」のための音楽作品も手がけている。広島のオープニング時、特別演奏することのできた《作品番号673》は、クリードが初めてオーケストラのために書いた楽曲である。音符までを作品の素材とみなし、五線譜上に見事に並べ、積み重ねられた音符は、18種の楽器編成オーケストラによって、転調しながらくり返し演奏される。また、このたび広島交響楽団の協力により演奏が実現された《作品番号955》は、あらゆる楽器、あらゆる音階をすべて等しく扱いたいという発想から作曲された、楽器同士が会話をしているような、音符のリレーのような楽曲である。


マーティン・クリード《作品番号673》
Photo: Fumie Kunihiro/Courtesy of Hiroshima City Museum of Contemporary Art

 「平等」というアイデアは、そもそもすべての作品を等しく扱うにはどうしたらよいか思い悩み、すべての作品を番号で管理することにしたクリードの作品タイトルから窺える(ただし、《作品番号1》はあまりにも衝撃的かつ意味を持ちすぎるという理由から欠番。2番もなく、3番から始まり、次は5番と、フェードインしながら作品タイトルをつけ始めた)。そのクリードの作品は、広島展のために書き下ろし、同じく広響による初演となった新曲「ヒロシマのために」で994番を数える。

 東京は清澄のギャラリー、hiromiyoshiiでも、クリードの新作のペインティングを見ることができる。この機会に広島で、そして東京で、なんど見ても飽きることのないクリードの作品を「くり返し」見ることをぜひともお勧めしたい。


hiromiyoshiiでの展示
Courtesy the artist and hiromiyoshii/©Martin Creed

マーティン・クリード展

会場:hiromiyoshii
東京都江東区清澄1-3-2 6F/Tel. 03-5620-0555
会期:2009年5月20日(水)〜6月20日(土)

会場:広島市現代美術館
広島市南区比治山公園1-1/Tel. 082-264-1121
会期:2009年5月23日(土)〜7月20日(月・祝)

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