2019年09月15日号
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キュレーターズノート

秋田市・ココラボラトリーがつくり出す場(金氏徹平×八木良太トークショー) 国際芸術センター青森(ACAC)、新たな展開

日沼禎子(国際芸術センター青森)

2009年07月01日号

 青森から奥羽線で秋田へ。初夏の津軽を走る列車。明るい日差しも心地よく、のんびりとペーパーバッグの活字を追っていると、途中、列車が急停車をした。ふと車窓に目をやると、そこはリンゴ園の真ん中だった。さわさわと風に揺れる木々の間に、収穫前のもっとも大事な作業、袋がけをしている農夫を見つけた。まだ青くピンポン球ほどのりんごを、一つひとつ丁寧に紙袋に包んでいく。赤く艶やかな果実が実るまでには、気が遠くなるほどの多くの仕事がある。やがて農夫も停車した列車に気付き顔をあげるが、また、黙々とした作業に戻っていった。そしてまた、列車は走り出す。旅の始まりは、なにか、とある予感を感じさせるものだった。


車窓からりんご園を眺める

 向う先は、今年の1月号でもレポートしたココラボラトリーである。秋田市・川反地区にある3階建てビル一軒を借り上げ、ギャラリー、カフェ、アートブックショップ、洋裁工房のそれぞれの若き経営者たちが共同で運営。なかでも1階のココラボラトリーは、貸ギャラリーのほか、演劇、トークイベントなどのさまざまな企画を行なっている。また、代表である笹尾千草が、県内外の優れたアーティストを紹介するスペース「project room sasao」を運営するなど、北東北のなかで、いまもっとも注目すべき活動を行なっている。
 この度、「project room sasao」で行なわれている金氏徹平の展覧会と平行し、「書籍販売まど枠」との共同企画によるエデュケーションプログラム「Art conference」における第一弾として「Great Escape Vol.1トークショー〈えらぶ・つなぐ──差異と調和〉」を開催。金氏徹平と八木良太とが個々の代表的な作品をスライドショーで紹介しながら、互いの差異と調和について対談した。横浜美術館での個展「溶け出す都市、空白の森」を終えたばかりの金氏は、現場での制作風景も公開。大規模な展覧会であったこと、また公立美術館という制約のあるなかでの制作が、むしろ自らの可能性を広げたのだと言う。また、初の映像作品の制作では、八木がその音楽を担当している。それはお互いにアイデアを持ち寄り積み上げていくようなかたちでの「コラボレーション」ではなく、自分が提示したものの先は相手の表現手段にゆだねる「オーダー」であると語った。差異を認めながら繋がりあうことをアーティストが自ら選び取ることで、つくる喜び、ひいては作品そのものに予期せぬ広がりがもたらされているようだ。


トークイベント会場。左から、金氏、八木、笹尾


満員の会場



project room sasaoでの金氏徹平による展示

 それにしても驚くべきは、秋田の人々の前向きな好奇心である。会場となった洋裁工房は「トワルrui」には、市内のみならず仙台、山形から多くの来場者が訪れ、熱気に包まれていた。トーク終了後に行なわれた金氏によるコラージュ付の図録販売、サイン会には観客が列を成し、名残惜しく、多くの人々が会話に夢中になっている。この吸引力は一体どういうわけだろう。「秋田には、現代芸術の拠点というべきところがないからこそ、こうした場を求めるのではないでしょうか。」と笹尾は語る。そしてまた、「このビルの各店舗がそれぞれ個性的であり、さまざまなチャンネルがあるからこそ、多様な人々をこの場所に惹きつけている」ともいう。このエデュケーションプログラムに寄せた主催者の言葉には「いかなる時代や場所をもしなやかに生きぬく重層的で柔軟な視点について一緒に考える」とある。芸術の言語では語りきれない、人々の生活の中にある多くの可能性。笹尾たちのゆっくりと、そして一つひとつ思いが込められた活動は、着実に実を結び始めているようだ。

★1──川反中央ビル(秋田市大町3丁目1-12/TEL+FAX:018-866-1559)
1F:ココラボラトリー URL=http://www.cocolab.net/
2F:石田珈琲店 URL=http://ishida-coffee.petit.cc/
3F:書籍販売まど枠 URL=http://madowaku-books.com/

《Great Escape: VOL.1》金氏徹平×八木良太トークショー「えらぶ・つなぐ──差異と調和」

会場:トワル.rui
秋田市大町3-1-12 川反中央ビル3階
会期:2009年6月20日(土)、19:00〜

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