キュレーターズノート

相撲王国・十和田(青森)で出会う心技体の美──「SUMO AURA(相撲 オーラ)」展

日沼禎子(国際芸術センター青森)

2009年10月01日号

 日本の国技・相撲。青森県は数々の名力士を輩出してきた地域であり、そのなかでも十和田は大相撲の稽古が行なわれたり、また、世界一大きな屋外屋根付き相撲場を有し、高校・大学の選抜相撲全国大会が毎年開催されたりするなど、相撲の町とまでいわれている。「SUMO AURA展」は、そうしたゆかりの地において、神事であり武道であり、伝統と様式を今日まで保ち続け日本人の精神に深く刻み込まれた相撲を現代の視点からとらえ、その美と輝き、オーラを表現し伝えようとするものである。

 本展は5名(組)のアーティスト、熊谷晃太、KOSUGE1-16、柴川敏之、村上タカシ、wowlabによる、相撲をテーマにしたさまざまなビジュアルや立体作品、ワークショップで構成。特に柴川は、広島大学在学時代に相撲部を創設し、映画『ちゃんこ』の原作となったというのだから、本展への参加には並ならぬ熱意があったのではないだろうか。プレイベント「MAWASHIプロジェクト」では、美術館内や商店街にある身近な人形に「まわし」と「シコ名」を付け、力士に変身させようというもの。美術館のシンボル的存在であるチェ・ジョンファ《フラワーホース》にも大きなまわしが付けられ、「駒乃花」と命名。


左:SUMOURA展、オープニングのテープカット。アーティストが勢ぞろい
右:チェ・ジョンファ《フラワーホース》は「駒乃花」に

 本展のメイン会場ともいうべき企画展示室の第1室は、まさしく熱気とオーラに包まれた空間。平成の名横綱(第65代)貴乃花の優勝額16枚がずらりと並ぶ。白黒写真に油彩色された高さ3m以上にもおよぶ絵画群には凛々しく猛々しい姿が描かれ、大関から横綱への変遷を見ることができる。また、土俵と原寸につくられた柴川の《PLANET CIRCUL》、デザインユニットwowlabによって編集された十和田市民が選んだ過去の名勝負の映像では、手に汗握る取り組みに、思わず声を上げてしまう観客も。それらが一体となったインスタレーション空間には、相撲ファンならずとも興奮し魅入ってしまう。
 また、注目の新人アーティスト・熊谷は動物を力士に模したペン画や、テレビの相撲中継で贔屓の力士を応援し、勝敗に一喜一憂する老人たちの日常風景を写した写真を発表。村上は、モンゴル相撲に関する品々を展示したゲル(モンゴルのテント)、商店街と美術館とをつなぐ《Green Stripe Project》などで祝祭的な場を演出。さらにはKOSUGE1-16による巨大紙相撲など、遊び心と体験に満ちた展覧会となっている。本展のゲストキュレーターである立木祥一郎氏は、「美術館でアートとして相撲を観る機会は、世界でも初めてのことではないか。今展に参加した現代のアーティストたちが、相撲をどのようにとらえ、どのように魅了されているのかを感じていただきたい」と語る。ともあれ、秋晴れの空の下、理屈なしに楽しめること請け合いだ。


写真左:wowlabの映像、柴川の立体作品、そして貴乃花の優勝額とが一体となったインスタレーション空間
写真右:50年間もの間、大相撲の優勝額はたった一人の彩色家・佐藤寿々江の手によるものだという


熊谷晃太によるペン画《雲龍型》(左)、《不知火型》(右)。動物の姿を借りて、横綱の土俵入りをユーモラスに描く


左:村上タカシによるゲルを模した作品。中にはモンゴル相撲の装飾品が展示されている
右:KOSUGE1-16によるワークショップ風景

SUMO AURA(相撲 オーラ)展

会場:十和田市現代美術館
青森県十和田市西二番町10-9/Tel. 0176-20-1127
会期:2009年9月19日(土)〜10月18日(日)