キュレーターズノート
相撲王国・十和田(青森)で出会う心技体の美──「SUMO AURA(相撲 オーラ)」展
日沼禎子(国際芸術センター青森)
2009年10月01日号
対象美術館
学芸員レポート
毎年恒例のことだが、春から秋にかけて、間髪いれることなく企画展やアーティスト・イン・レジデンス展を連続開催している。まずは春の特別企画として、現代日本を代表する彫刻家・遠藤利克による「供儀と空洞」である。円弧を描くACACの特異な展示空間の中に、燃やして炭化させた壷、舟、落下する水、鏡、馬の骨が、太古の物語を巡るかのように配置された。虚像と実像とが共に立ち現われ、死と再生を繰り返すかのような、さらには、青森という濃密な磁力とともに奇妙な身体感覚をもたらすものであった。
遠藤利克「供儀と空洞」会場風景
遠藤利克による舟の野焼き風景
続く春のアーティスト・イン・レジデンス(AIR)では、ハン・スーチェン、ヨク・クンビョン、本田健を招聘したプログラムを開催。最終的な発表の場である展覧会ではタイトルを「原初の肖像」とし、3名の異なる背景を持つアーティスト個人の、あるいは背後にある歴史、時代もが個々の「表現=肖像」となって立ち現われてくるものとしてとらえた。ハンは、自らの出自である中国文化を象徴する「赤」を鮮烈なイメージとして用い、柔らかな赤い糸と鋭利な針とを組み合わせた高さ6mもの柱を天井から吊り下げ、床に設置した水盤に映し出されるサイトスペシフィック・インスタレーションを発表。ヨクはメディア・アーティストの第一人者として国際的に活躍。火・水・土・身体などの原初的なエネルギーを表出させる作品で著名。この度、十二支神をモチーフとした新たな作品を展開。9歳から59歳までの男女、計12名の地域に暮らす人々からモデルを集め、その姿を12名の神像に見立てた映像作品を制作。私たちをとりまく世界の法則を数字と記号で表わそうとした。本田健は、岩手県遠野に暮らし、チャコールによって里山の風景を細密に描き出す「山あるき」のシリーズで高い評価を得てきた。本滞在では2006年から制作中の大型のドローイング「山あるき──十一月」を完成させた。また、墨渓采誉(ぼっけいさいよ)の「月夜山水図」からイメージを得て、ACACの森を歩きながら出合った3つの視点による新作3点を制作した。いずれも実力派の3名による意欲的な取り組みがされたのは、やはりAIRがつくりだす環境によるものだろう。
ハン・スーチェン《赤柱》。アーティスト・トークの様子
ヨク・クンビョン《十二支神像》
本田健《山あるき──十一月》の制作風景
「未視感──光の皮膜・呼吸する箱」は、メディア・アーティスト、松村泰三と森田多恵による展覧会である。目に見えない光の存在を色や形に変える、あるいは可視と不可視の境界をゆらぐような作品を発表してきた2人による、新作発表と、ワークショップ型の展覧会である。松村はギャラリーAに5つの光を配置。光の3原色を分解と結合との双方で見せることによって、私たちが普段気付かずにいる光の存在を浮かび上がらせる。観客はその光の下で縄跳びをしたり踊ったりしながら、身体の知覚としてそれを体感する。森田は「呼吸する箱」と題し、幻灯機の原理で小さな箱の中に森の風景をつくり、のぞいて見ることと投影とが両方できる箱を制作。自らの作品を見本としてワークショップで子どもたちが制作した作品とを並列して展示した。
松村泰三《光の皮膜》
森田多恵《呼吸する箱》
さて、最後に、秋AIR参加アーティスト決定の報告。この度は「home」をテーマに、国内外のアーティスト4名を招聘する。審査によって選ばれたのは、呉夏枝(大阪)、大西康明(大阪)、コーネリア・コンラッズ(バード・ミュンダー/ドイツ)、パク・へス(ソウル/韓国)。9月末からの滞在中、展覧会のほか地域交流を多彩に行なう予定である。
遠藤利克「供儀と空洞」
会期:2009年5月23日(土)〜6月28日(日)
春のアーティスト・イン・レジデンス「原初の肖像」
会期:2009年7月25日(土)〜8月23日(日)
*招聘アーティスト:ハン・スーチェン/ヨク・クンビョン/本田健
松村泰三×森田多恵「未視感──光の皮膜・呼吸する箱」
会期:2009年9月5日(土)〜10月12日(月)
秋のアーティスト・イン・レジデンス「HOME」
会期:[滞在]9月24日(木)〜12月19日(土)/[展示]11月14日(土)〜12月13日(日)、10:00〜19:00
*招聘アーティスト:呉夏枝/大西康明/コーネリア・コンラッズ/パク・へス
以上、すべて「会場:(青森公立大学)国際芸術センター青森」