2023年02月01日号
次回2月15日更新予定

キュレーターズノート

高山登 展/公会堂アートショウ+

伊藤匡(福島県立美術館)

2010年03月01日号

 今月は、今冬に東北で開催されているインスタレーションの展覧会を二つ紹介したい。

 はじめは宮城県美術館の「高山登展」。高山の作品というと、タールの染みた枕木の重量感と、クレオソートの鼻につく匂いを連想する。この匂いはくせ者で、以前福島県立美術館で展示した時には、展示室内に匂いが充満して気分が悪くなった観覧者が出たことがあった。しかし今回の展示では匂いもないし、枕木の表面もさらさらした感じである。展覧会を担当した和田浩一学芸員に聞いたところ、作家と話し合い、健康や環境を考慮してタールやクレオソートを使わない枕木を使用したという。
 2006年までの25年間、仙台の宮城教育大学に勤務していた高山にとって、宮城県美術館はいわばホームグラウンドである。勝手がわかっている空間であるからなのか、枕木、鉄板、鉄パイプ、コンクリートブロックなどが整然と置かれている印象がある。今回の展示では、展示室や中庭、エントランスホールなど6カ所に新作を設置している。また展示室内の一角では、高山のドローイング、過去の作品の写真や実験映画のような映像も上映している。 
 作家はマケットで構成を考え、展示に約1カ月をかけたという。展示室内では、中央にグランドピアノが置かれ、床には枕木が螺旋状、あるいは放射状に置かれている。天井にはプロジェクターが設置されて、ゆらめく波のような青い光が枕木を照らし出している。また中庭の展示では、枕木や鉄パイプ、鉄かごなどが四隅から中央に向かって並べられ、中心部には白木の門のような矩形が置かれている。今回の展示では、以前の高山作品の、重量物が壁に立てかけられていることからくる倒壊の予兆や、この状態はこのまま続くことはないという非永続性という印象は受けなかった。むしろ、物体が空間と調和してあるべき所に納まっている安定感と永続的な美しさが印象的だった。
 今回の個展は、規模の点で高山登の集大成というべきものだが、光の導入やグランドピアノの設置など、新しい表現や素材を取り入れており、今後の展開にも期待をもたせてくれている。会場で作品を見ながら、展示されているピアノでインプロヴィゼーション(即興演奏)をするならば誰がいいだろうか、などと考えた。私ならばセシル・テイラーを思い浮かべたのだが。


左=高山登《ヘッドレス・シーナリー》/右=同《ヘッドレス・シーナリー 消された記憶》

 盛岡市では岩手県公会堂でアートショウが開かれた。タイトルに+(プラス)とついているのは、会場が公会堂のほかに、明治時代の煉瓦造りの洋館・旧石井県令私邸を加えた2カ所での展示となっているからだろう。出品作家も、海外の招待作家を迎えて総勢14人と、質量ともに拡大傾向である。
 公会堂の展示では、ウィーンの作家トーマス・ホーケの作品が規模も大きく、存在感があった。公会堂で一番広い部屋の中央に、高さ2メートル以上の木板を縦に円形状に並べたものだが、なかにスピーカーが仕掛けられ、鑑賞者の動きに合わせて音が聞こえてくる。森の中で都会のざわめきを聞くような意外性のある組み合わせである。石井県令私邸の片桐宏典の作品も、音が重要な要素になっている。建物外部に巨大な金属製の円錐形が飛び出ていて、その先端は建物内の地下に通じている。建物内部に廻って先端に耳を近づけると、外界の音が聞こえてくる仕掛けだ。「サーッ」というホワイトノイズの中に時折人声らしき音が混入する。すぐ隣の保育園に子どもを迎えにきた親と子の会話のようだが、ヴォカリーズ(母音のみで歌う歌詞のない歌唱法)のように聞こえてくる。このショウの長老格、百瀬寿は、公会堂の中の小さな部屋全体を黒いビニールで目張りし、蛍光色に染めたロープを張り巡らせて、鮮やかな色彩空間を作り上げていた。
 このアートショウは、歴史的建造物である公会堂の有効活用法のひとつとして出発したと聞いている。そのため第1回展ではこの建物のもつ歴史や独特の空間を意識した作品が多かったが、今回は純粋に作品発表の場ととらえている作家が多くなったように見える。そのなかにあって、この公会堂が建設された1927年という時代にこだわった作品を出品し続けている石川美奈子の存在は貴重である。造形物と言葉の組み合わせで作品を構成するこの作家は、今回は1927年に書かれた高村光太郎の「人の首」というエッセイを透明アクリル板に印字し、その周囲にサラ・ベルナールやグレタ・ガルボら当時の有名人たちの肖像も刻印している。
 このアートショウも3回目を数えることとなった。第1回展の祝祭的な雰囲気は薄れてきたが、それは日常的、恒常的になってきたことの表われともいえる。作品本位の現代アート展に移行しているのだろうが、それにしては作家によって意気込みの違いが目立つ。今後ビエンナーレとして定期的に開催する計画もあるようだが、それならばこのアートショウのめざす方向をはっきりさせるときに来ているように思う。冬場のアート・イベントは少ないからこの時期の開催にも一理あると思うが、寒さを忘れる熱気ある作品を見たいものである。


展示風景。左=百瀬寿作品/右=石川美奈子作品

高山登 展──300本の枕木 呼吸する空間

会場:宮城県美術館
宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1/Tel. 022-221-2111
会期:2010年1月23日(土)〜3月28日(日)

第3回 岩手県公会堂アートショウ+(プラス)

会場[A]:岩手県公会堂
岩手県盛岡市内丸11-2/Tel. 019-652-0510
会場[B]:旧石井県令私邸
岩手県盛岡市清水町7-51
会期:2010年2月11日(木)〜2月28日(日)

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