キュレーターズノート
本郷仁「CAPTURED──とらわれの視覚」/hinten/雲隠れ、急カーブで目を見開く:contact Gonzo×梅田哲也/あいちトリエンナーレ2010
能勢陽子(豊田市美術館学芸員)
2010年06月01日号
対象美術館
最近は抱える展覧会の狭間ということもあり、比較的時間の余裕もあったので、わりと展覧会を観て回ることができた。今回は、この近辺で観たそれらをまとめて紹介したいと思う。
瀬戸市美術館では、本郷仁の「CAPTURED──とらわれの視覚」(4月3日〜5月30日)を開催していた。鏡面が幾重にも映り込むことで錯視がもたらされ、身体感覚にずれが生じる。それは、オラファー・エリアソンやカーステン・ヘラーなどの、鑑賞者の知覚体験をそのまま取り込んでしまうようなインスタレーションと、類縁性がありそうにみえる。しかし、それらの作家たちがどちらかというと知覚・身体感覚を拡大・拡散させていくような印象を与えるのに対して、本郷はむしろこの“身体に囚われた不自由な感覚”というものを感得させようとしているようにみえる。そして、逆説的にこの世界の手触りを与えようとしているようなのである。
また、美術、音楽、パフォーマンス、レクチャーなど、多様な活動の発信の場として重要な場となっている名古屋市内のカフェ・パルルの隣に、hintenというギャラリーがオープンした。このギャラリーは、学生も含めた名古屋の若手作家たちが、活動の場を求めて自主的にオープンしたスペースであり、訪れたときにはオープン記念第5弾となる坂本和也の絵画展が開催されていた。この作家も、ギャラリーの運営スタッフの一人である。作家が出品した雑貨やレコード、洋服などを販売して運営資金を稼いだり、ゲストキュレーターを招いて展覧会をすることも考えているようだ。こうしたアーティスト・ラン・スペースはこれまでもいくつかあったが、新たな試みをするなどして、今後発信力や独自性が出てくるとなお良いだろう。
また5月5日、同じカフェ・パルルに、「tour nomad 2010.5.5 雲隠れ、急カーブで目を見開く」という、contact Gonzoと梅田哲也の日本各地を巡るツアーがやってきた。名古屋では、ここにテニスコーツの植野隆司も参加した。contact Gonzoのパフォーマンスを実際に観たのはこれが初めてであったが、ただ殴り合っているようにみえるが、身体は強靭に鍛えられていて、その行為が互いの信頼関係のうえに成り立っていることがわかる。喧嘩と舞踏のあいだで宙吊りになったような動きのもどかしさが、ときおり緊張とユーモアを誘う。梅田哲也は、扇風機、風船、缶などの日用品を使って、世界の構造を簡略化して再現する化学実験のような静謐なサウンド・パフォーマンスを行なった。そしてその最後には、contact Gonzoの乱闘のなかに巻き込まれてしまった。
contact Gonzoと梅田哲也は、「あいちトリエンナーレ2010」に参加することが決まっているが、最近至るところで「“あいちトリエンナーレ”はどうですか?」と訊ねられる。当館では、「あいちトリエンナーレ」にあわせ、森村泰昌展と石上純也展を開催する予定だが、トリエンナーレ自体に直接的に関わっているわけではないので、内容や進行状況についてはよくわからない。しかし、折に触れて遭遇するトリエンナーレ関係者からは、準備が佳境に入り、慌しくなってきたことが伝わってくる。最近明らかになった最終的な出品作家リストには、シプリアン・ガイヤールなど動向が気になる日本初公開の作家なども入ってきている。なにより、ヤン・ファーブル、ローザスなどの舞台の新作が愛知で観られることは、滅多にない機会になる。「あいちトリエンナーレ」により、名古屋における現代美術濃度が急速に高まっている。それが今後、この地の文化状況にどのような影響、変化を与えるのかということを、注意深く見守っていきたいと思う。