キュレーターズノート

「生活工芸」展/金沢クリエイティブツーリズム:オープンスタジオとアトリエ訪問

鷲田めるろ(金沢21世紀美術館)

2010年11月01日号

学芸員レポート

 この秋より、「金沢クリエイティブツーリズム」という活動に関わっている。普段一般公開されていない場所を含め、街の観光資源を発見し、それを見て回る方法を実験しようというものである。金沢美大の先生やまちづくりを仕事にしている人、NPO関係者、ガイドのボランティアをしている人たちが集まってグループをつくり、実施している。そのなかで、茶室や町家、近代建築などの建築とともに、アーティストのアトリエを訪ねることができないかと考え、実施方法を模索中である。いまのところ試みているのは「オープンスタジオ」と「アトリエ訪問」という方式。「オープンスタジオ」は、公開日を設定し、その日に、各自が地図を持ってアトリエを訪ねてゆく方法で、10月半ばの週末に最初のオープンスタジオデーを行なった。一方のアトリエ訪問は、参加者を15人募集して市内の作家を訪問する方法で、11月に最初の訪問を行なう。どちらも訪問先の作家のポートフォリオを武蔵ヶ辻にあるアートスペース「金沢アートグミ」の一角をお借りしてアーカイブ化し公開することも目指している。
 このようなアイディアの背景には、昨年、ベルギーのゲント市にある現代美術館S.M.A.K.にスタッフとして半年間在籍したときの経験がある。そのなかでおおいに見習いたいと思ったことのひとつは、S.M.A.K.の館長とキュレーターたちが、ゲント市内や近隣の都市の作家のアトリエを定期的に訪ねていたことである。私もよく同行させてもらい、ベルギーの作家を知ることができた。その場で意見を求められ、自分なりの感想を瞬時にまとめる経験はたいへん勉強にもなった。だがもっとも刺激を受けたのは、彼らが展覧会を目的として、良い作品を選び出すような姿勢ではなく、どんなときもつねに作家と寄り添い、一定の距離を保ちつつ、作家の試行錯誤をともに見続ける姿勢をとっていたことである。町のキュレーター、かくあるべしと自分を戒めるとともに、それをシステムとして共有することが有効だと考えたのが、このオープンスタジオとアトリエ訪問というプログラムである。今後どのように展開できるかまだ未知数だが、じっくりと取り組んでゆきたい。


オープンスタジオデー(左=藤原絵里佳/右=菊谷達史)

金沢クリエイティブツーリズム:オープンスタジオデー

会場:金沢市内各所
会期:2010年10月16日(土)、17日(日)
主催:金沢クリエイティブツーリズム実行委員会

  • 一原有徳氏のこと
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