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[PR]複製に宿るオリジナリティ──
職人の技とITがつくる複製原画「プリモアート®」

影山幸一(ア-トプランナー、デジタルアーカイブ研究)

2020年01月15日号

「複製画」と聞いてどのようなシチュエーションが思い浮かぶだろうか。例えば美術館のミュージアムショップでお土産として販売されているものや、クリニックの待合室で目にするインテリア、あるいは展覧会で保存状態維持の観点から実物の代わりに展示されているものなど、私たちは意外と多くの場所で複製画を目にしている。
株式会社DNPメディア・アートでは、印刷会社で培われてきた最新鋭の技術力を活かし、高精彩複製画「プリモアート®」の製作を行なっている。その制作過程の緻密さと奥深さ、そして複製画の今日的な意義を、本サイトでの連載「アート・アーカイブ探求──絵画の見方」の著者でもあるア-トプランナー/デジタルアーカイブ研究者の影山幸一が読み解いていく。(編集部)

オリジナルとコピーの相互作用

デジタル社会の現代は複製時代でもある。“コピー&ペースト”が日々繰り返され、PCの簡単な操作で、オリジナルと遜色ないコピーが大量に出現している。物質性のないボーン・デジタルのデータからは印刷物や立体物が製作でき、それらすべてがオリジナルともいえる。複製芸術と言われる版画や鋳造彫刻は、価値を高めるため同じ版による刷りの数を厳密に決めて、限定エディションで一枚ずつサインと番号を付し、版は刷り終わったあと、通常つぶされる。

複製に関連した言葉には、リプロダクション、マルティプルレプリカなどがあり、フランスの美術家マルセル・デュシャン(1887-1968)は、複数の既製品を用いたオリジナル作品を制作・流通させたことでオリジナルの概念に一石を投じ、現代美術に影響を与えた。

オリジナルとコピーの相互作用によって、芸術だけでなく現代社会や日常の暮らしも形づくられている。オリジナルの記憶を宿しながら変容し、コピーは独自の存在感を増していくように思える。ものごとの存続にはコピー現象がともなっており、オリジナルとコピーは単純にホンモノとニセモノとに区別することができない。真似(まね)るとは学ぶと同源であることを思い起こせば、複製品の存在が本物を守り、生かして、新たな価値観を創造していることが浮上してくる。

現在、印刷会社や事務機器関連などの会社によって複製芸術に近い複製画が製作されている。名画の複製品にとどまらず、ボーン・デジタルから生まれたアニメーションのイラスト画など、複製画の品質が向上し、裾野が広がってきた。印刷会社としての技術と経験を活用した複製画を製作する株式会社DNPメディア・アートの製作者を訪ねた。

複製技術の進化

複製画は、名画を所有している美術館や博物館、神社仏閣などにとって火災や塩害などの災害や、経年変化からオリジナルの作品を守る備えとしてすでにデジタルアーカイブとしても活用されており、通常は高精細につくられたレプリカを展示し、その旨を明記したうえで来館者を迎え入れている。オリジナルの本物は防災設備の整った収蔵庫に保管され、展覧会の貸出にも対応している。

複製画は本物の代替として、教育普及や広報活動にも欠かせないだけでなく、個人ユーザーにとっては、名画がインテリアになり、絵を掛け替えれば家庭ギャラリーにもなり、豊かな環境をつくることができる身近なアイテムである。近年では立体複製画として油絵の凹凸までを再現した触れる複製画も登場。実物と変わらぬ複製画の精度は増し、さらにスキャナーや写真、印刷の複製技術は日々進化を続けている。

DNPメディア・アートでは、140余年の歴史のなかで培ってきた印刷技術とノウハウを活かして高精彩複製画「プリモアート®」を製作。アート(芸術)にイタリア語のプリマ(prima:最高の)を冠したブランド名で、実績を積んだ画像オペレーターたちが最新機器に向き合い、色彩やタッチの調整に挑んでいる。原画の個性が最大限に発揮されるよう、また複製画の使用目的にも対応できるように注意深く操作を行なっているという。

人間の目で見える全色域

10年ほど前に立ち上がった「プリモアート®」では、CMYKの領域を上回る表現ができるようになったという[図1]。かつてのアナログ印刷時代は4色(CMYK)のインキだったが、現在は専用のインクジェットプリンタで、10色が出力できる。扱える色の領域がぐんと広がった。それだけに色の調整が肌感で100倍くらい難しくなったそうだ。「4色の印刷ではマゼンタを足して仕上げていた色が、RGBの色域に近い10色での表現ではグリーンを微妙に操作することになった。特に青系の色調整は難しい」という。

図1 色域図

「プリモアート®」の製作工程は、原画を約1億画素のデジタルカメラ(Phase One)で撮影[図2]し、その画像データ★1を画像オペレーターが画像処理ソフトで色調整を行なう[図3]。その後、製版し、プリンター用にデータ変換をして出力し、額装を経て、ようやく複製画は完成する。キャンバス・和紙・バックライトフィルムのほか、多種ある画材紙は1,000ミリメートル幅のロール状で、大きな作品は紙をつないで製作する。プリモアート®の技術で、関東大震災により焼失した「日本・デンマーク修好通商航海条約の批准書」の複製を実現したこともある。

図2 原画を高解像度デジダルカメラで撮影

図3 画像オペレーターによる色調整

★1──撮影時に用紙に対応した独自のカラーチャートを一緒に撮影し、ホワイトバランスもとる。取得する画像はRAWデータ。RAWを現像し、原稿原寸サイズ720dpi、8bitで書き出す。

職人技の信頼と温もり

画像オペレーターは、複製画の製作に際してまず基準のカラーチャートを測色機で測色する。一貫したカラーマネジメントシステムにより、入力時と出力時のデータとを比較して基準色差ΔE★2に収まるように調整し、色管理を徹底させている。経験を積んできた画像オペレーターであっても主観のみでなく、画材紙の知識があり、顧客の要望を直接聞いているプリンティング・ディレクターと相談を重ねながら、専用の色プロファイルを使い、色彩やシャープネスの調整を行なう。「原画の赤色に影がある場合、影に黄色い成分を入れると絵全体が濁って見えてくる。少なくすると立体的に鮮明に見えてくる。影の色はかなり重要。原画の絵具の材料や艶の違いも画像を加工することで表現している」とベテラン技術者は述べる。出力時には、紙とインキのマッチングを考えて、印字スピードや圧力の調整をする。ハイクラスのものは一日に限られた数しかプリントできない。本物のオリジナルが放散するアウラを、プリンティング・ディレクターと画像オペレーターが受け止め、検討を重ねることで職人技の温もりが宿る高品質な複製画に仕上がっていく。

額縁は、現在5種類から選択できるそうだ。額装担当者は、絵柄と予想される顧客とをイメージしながら額の在庫切れがないように備えている。額は絵を守り、顧客と複製画をつなぐ大切なオブジェでもある。

★2──二つの色を離して見比べたときに違いがわかるレベル。デルタ・イー(Empfindung:感覚)と読む。

2020年1月



関連リンク

株式会社DNPメディア・アート:http://www.dnp.co.jp/media_art/
DNP高精彩出力技術プリモアート®:http://www.dnp.co.jp/media_art/artisan/printing.html

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