アート・アーカイブ探求
鈴木其一《朝顔図屏風》メビウスの輪の飾り──「玉蟲敏子」
影山幸一
2011年08月15日号
植物のエネルギー
世界ではノルウェーの乱射事件や、中国の新幹線事故処理への反発、米ドルの下落と不信感、イギリスでは暴動が勃発し今も激しさを増しているなど、国政に対する憤懣が噴出しているのに対して、日本は3.11以後も政治が政争を乗り越えられずに停滞しているが、大きな混乱が起きていないことは、被災地である東北人気質による我慢強さもあろうか。ちょっと日本人を見直している今日この頃である。女子サッカーW杯で「なでしこジャパン」の優勝が、失望から希望へ、消えかけていた大和魂に灯をともしてくれたのかもしれない。
立秋を過ぎたというのに夏の太陽が容赦なく照りつける猛烈な暑さの日本列島。暴動も起こさず、打ち水に風鈴、簾を取り付け、古き良き時代の庶民の暮らしぶりに思いを馳せながら、冷房控えめの節電にも慣れてきた。
ある日の午前、朝顔が蔓を伸ばし濃い緑色の葉をいっぱいに広げ、大きな花を点々と咲かせているところに出会った。凄みのある植物のエネルギーを感じ思わず立ち止まった。動物のような生命力。この感覚を宿す絵があった。『もっと知りたい 酒井抱一 生涯と作品』(玉蟲敏子著, 東京美術刊)に掲載されていた明快な絵だ。作品から伝わる躍動的なパワーが悩みを晴らすようで新鮮だった。鈴木其一の《朝顔図屏風》(米国・メトロポリタン美術館蔵)である。
朝顔といえば夏を代表する植物であるが、江戸時代の終わりになぜ朝顔が描かれたのか。巨大画面の《朝顔図屏風》とは一体どのような絵画なのだろうか。武蔵野美術大学造形学部教授の玉蟲敏子氏(以下、玉蟲氏)に伺いたいと思った。玉蟲氏は日本美術史の専門家で酒井抱一研究の第一人者だが、抱一の愛弟子だった其一についても研究されている。
台風9号が沖縄本島に近づき、湿度60%を超える蒸し暑さのなか、東京・成城学園前へ向かった。博物館での会議を終えたばかりの玉蟲氏が、待ち合わせの喫茶店でにこやかに待っていてくれた。