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アート・アーカイブ探求

俵屋宗達《風神雷神図屏風》 鉢巻をした雷神に見る聖と俗の美──「佐藤康宏」

影山幸一

2009年04月01日号

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 空飛ぶ風神と雷神を拡大して見ると、輪郭線は墨でなく茶色の線で描かれていることがわかる。また線は直線が際立つ正方形の屏風に抵抗するかのように、曲線を主張した筆使い。太くたっぷりとした線の中で、髪の毛を密集させて描いた張りのある繊細な細い線もある。それら線の表情が画面全体に柔らかさと軽みを与えている。
 芝居的である二神の異様なところは、腕輪や足輪、爪の長さではなく、風神の足と雷神の手の変形である。スピード感のある体の動きを強調するためのデフォルメであるが、バランスが崩れている。しかし神通力を保持している神は人間と違いこのような形をすることもありそうだ。
 また宗達は、建仁寺の「○△□乃庭」に応じて《風神雷神図屏風》を制作したわけではないが、作品の中にもデザインセンスを感じさせる○△□の形を読み取ることができる(画像参照)。

《風神雷神図屏風》に○△□を読む
《風神雷神図屏風》に○△□を読む

端っこ故の面白さ

 「日本美術にはいろいろなものがある楽しさがある」と言う佐藤氏は、「日本は世界的に見れば周縁の地域である。東アジアの周縁、ヨーロッパから見た周縁、中央からものが流れ着き、溜まっていく周縁であればこその面白さがある。日本の造形の世界は、まさにそういう様相を呈していて、中心的な力強いものは少ないが、端っこ故の面白さは事足りる。日本美術はこちらの関心のありかによって見え方も違ってくるし、そのときそのときで楽しめる。《風神雷神図屏風》のセクシャルな見方の元は、日本神話で国土や神を生んだ男神と女神の“いざなぎのみこと・いざなみのみこと”に通じており、性に対しておおらかなこの国の文化の特異なところだ」。二曲一双の屏風は狭い空間に立てるのに向いていて、公的というよりも私的な空間を演出する屏風と考えるとそのリアリティも増す。
 宗達が創り出した風神雷神の原点は、6世紀中国の敦煌莫高窟壁画第249窟に描かれている風神雷神であるともいわれる。人間が自然を畏れ敬い、豊な恵みを願い、共存していくシンボルとした風神雷神。宗達も表向きはそうなのだろう。しかし、書家や茶人、宮廷歌人に天皇まで、ジャンルや社会的立場を超えて一流の文化人と交流していた宗達が、それだけにとどまるとは思えない。妙光寺はサロン的な役割を果たしていたのかもしれない。裕福な町衆でもあった宗達と、世俗を知らない高貴な人々との交流から生まれた絵は聖と俗の融合である。力強さを強調させながらアンバランスに躍動する肢体は滑稽でもある。王朝美の典雅な世界に魅せられた宗達のひとつの到達点は、俗に神を見ていたのか。好奇心を刺激する風神雷神であった。

主な日本の画家年表(15世紀~21世紀)
主な日本の画家年表(15世紀~21世紀)
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【画像製作レポート】

 建仁寺は《風神雷神図屏風》(右隻・左隻)を京都国立博物館へ預託している。そのため作品の写真を借用するのに両者への願い出をする必要があった。まず建仁寺へ電話後「写真掲載許諾願い」をFaxし、「写真掲載許可書」を郵送してもらう。その後京博へ電話をし、インターネットのURL・パスワード・IDをFaxしてもらった。インターネットより「特別観覧願」をダウンロードしてプリントアウトし、必要事項を記入。郵送する内容物は、「特別観覧願」「写真掲載許可書のコピー」・《風神雷神図屏風》の画像コピー・80円切手付き(今回は速達料分の切手も貼付)返信用封筒の4点。京博に郵送。デュープした4×5カラーポジフィルム右隻・左隻各1枚がフォトファクトリー・ミハラから宅急便で届いた。ここで1作品の写真借用に3機関が関わっていることを知った。ポジフィルム入手後に京博から「特別観覧許可書」(観第2008-0813号)と「特別観覧料請求書」が届く。「特別観覧料請求書」には振り込みした日付けを記入後、博物館財務係までFaxするよう指示が添えてあった。建仁寺へ電話をしてからおよそ3週間して写真が手元に届いた。京博は所蔵作品については、インターネットで画像を販売している。他機関が所蔵する作品については約2週間という目安はあるが、納品までの時間と料金は明示がないようだ。建仁寺1万円、京博2,100円(1,050円×2)、ミハラ8,400円(3,500円×2+送料1,000円+消費税400円)。
 《風神雷神図屏風》右隻と左隻のポジフィルム2枚をPower Macintosh OS9.2+Photoshop7.0+EPSON GT-X700により、48bit・1200dpi・RGBでスキャニング。ポジフィルムと作品の水平が取られておらず、また屏風の額の上下が写真に収まっていなかったため、2枚の画像のつなぎ合わせや色のトーン調整など手間取った。iMacの17インチモニターをEye-One Display2(X-Rite)によって調整、モニター表示のカラーガイドとポジフィルムのカラーガイドを、目視により色を合わせた。モニター表示のカラーガイド(Kodak Color Separation Guide and Gray Scale Q-13)は事前にスキャニング(brother MyMiO MFC-620CLN, 8bit, 600dpi)。右隻と左隻のデータは8.63MB・350dpi・Photoshop形式に保存した。またセキュリティーを考慮して画像には電子透かし「Digimarc」を埋め込み、高解像度画像高速表示Flashデータ「ZOOFLA」によって拡大表示できるようにしている。




佐藤康宏(さとう・やすひろ)

東京大学人文社会系研究科教授。美術史学者。1955年宮崎県生まれ。1978年東京大学文学部美術史学専修課程卒業、1980年同大学院人文科学研究科修士課程修了、同年東京国立博物館資料課、1981年文化庁文化財保護部美術工芸課を経て、1994年東京大学文学部助教授、2000年より現職。近世絵画専門。主な著書:『若冲・蕭白』(小学館, 1991)、『湯女図 視線のドラマ』(平凡社, 1993)、『講座日本美術史 第3巻 図像の意味 』(東京大学出版会, 2005)、『日本美術史』(放送大学, 2008)など。

俵屋宗達(たわらや・そうたつ)

桃山〜江戸初期の画家(生没年不詳)。生家は京都の上層町衆で「俵屋」を屋号とする扇絵や料紙などの絵を手がける絵屋。茶人・千少庵、宮廷文化人・烏丸光広、芸術家・本阿弥光悦ら一流の文化人と交流。厳島神社の装飾経「平家納経」の修理に参加(1602)、三巻の表紙絵と見返しの補作が年代のわかる宗達の最初の仕事。王朝美の感化を受け、華麗でありながら大胆で明快な宗達の図柄は、主に光悦の書の下絵として料紙に金銀泥絵で描いたことに始まる。中国の水墨や図様にも影響を受け、やまと絵の伝統を意識しながらも、「たらしこみ」など独自の画法を確立。その技法は、光琳や抱一らに受け継がれ琳派様式となる。法橋を授かる。国宝は《風神雷神図屏風》《蓮池水禽図》《源氏物語関屋及澪標図屏風》、重要文化財に《舞楽図屏風》など。

デジタル画像のメタデータ

タイトル:風神雷神図屏風。作者:影山幸一。主題:日本の絵画。内容記述:俵屋宗達, 17世紀前半 江戸時代, 紙本金地着色, 二曲一双, 各154.5×169.8cm, 国宝。公開者:(株)DNPアートコミュニケーションズ。寄与者:建仁寺。日付:2009.3.19。資源タイプ:イメージ。フォーマット:Photoshop, 350dpi, 8.65MB。資源識別子: FUJIFILM CDUII 34182 BL(BHB, BFI)。情報源:─。言語:─。体系時間的・空間的範囲:─。権利関係:建仁寺, 京都国立博物館, 金井杜道(撮影)

参考文献

岡本謙次郎「宗達〔風神雷神図〕について」『みづゑ』p.5-p.7, 1957.12.3, 美術出版社
村重寧『宗達』1970.8.31, 三彩社
『名宝日本の美術 第19巻 光悦・宗達』1983.7.15, 小学館
小林忠「短期連載2 日本文化のデザイナー 俵屋宗達と〔風神雷神図〕」『短歌研究』第45号5号, p.114-p.120, 1988.5.1, 短歌研究社
山根有三先生古稀記念会編『日本絵画史の研究』1989.10.1, 吉川弘文館
奥平俊六『新潮日本美術文庫5 俵屋宗達』1997.6.1, 新潮社
仲町啓子『琳派に夢見る』1999.2.10, 新潮社
橋本治「連載─その62 ひらがな日本美術史 素性の知れぬもの 俵屋宗達筆 |風神雷神図屏風」『芸術新潮』通巻597号, p.110-p.117, 1999.9.1, 新潮社
細見美術館監修『琳派を愉しむ──細見コレクションの名品を通して』2001.10.12, 淡交社
佐藤康宏「連想・日本美術史1 〔語る〕1 ラブホテルの風神雷神」『UP』351号, 2002.1, 東京大学出版会
吉川登・野上雅志「鑑賞学実践研究3─俵屋宗達作〔風神雷神図屏風〕─」『熊本大学教育学部紀要』第51号, p.131-p.141, 2002.11.25, 熊本大学教育学部
前田恭二『やさしく読み解く日本絵画』p.63-p.66, 2003.8.25, 新潮社
玉蟲敏子「〔形態の伝承〕と伝説化をめぐる考察──〔琳派〕の諸作品を中心に」『講座日本美術史 第2巻 形態の伝承』p.301-p.334, 2005.5.30, 東京大学出版会
村重寧「国宝 〔風神雷神図屏風〕建仁寺蔵 口絵裏解説」『紫明』第十七号, 2005.10.10, 紫明の会
古田亮「特集 現代の〔風神雷神図〕──宗達、光琳に挑んだ異才12作家の野心作 【風神雷神図の起源と展開】宗達、光琳から近現代へ──固定されたイメージからの脱却」『月刊美術』通巻367号, p.52-p.57, 2006.4.20, サン・アート
図録『国宝 風神雷神図屏風 宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造』2006.9.9, 出光美術館
内藤正人「国宝 風神雷神図屏風─宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造─」『Fuji-tv ART NET』2006(http://www.fujitv.co.jp/event/art-net/go/369.html)2009.3.5
佐藤康宏『放送大学教材 日本美術史』2008.9.20, (財)放送大学教育振興会
村重寧『アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたい 俵屋宗達 生涯と作品』2008.9.25, 東京美術
図録『尾形光琳生誕350周年記念 大琳派展 継承と変奏』2008.11.4, 読売新聞社

2009年4月

  • 俵屋宗達《風神雷神図屏風》 鉢巻をした雷神に見る聖と俗の美──「佐藤康宏」

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