アート・アーカイブ探求
黒田清輝《湖畔》──西洋画受容の芽生え「田中 淳」
影山幸一
2010年07月15日号
涼風
小惑星探査機「はやぶさ」が、太陽系誕生の謎を探るため、片道約20億kmを旅して、イオンエンジンなるもので自立飛行し小惑星イトカワに到着、サンプルを採取し、奇跡的に地球に帰還してカプセルを落下させ、流れ星となったのが、2010年6月だった。7年間のはやぶさ君の満身創痍の働きぶりと、南アフリカでのワールドカップサッカーの日本代表ベスト16入りに、久しぶりに日本中が胸を熱くした。そんなさわやかな余韻がまだ心に残るうちに、相撲界の賭博騒ぎがじっとりとした現実の蒸し暑さを思い起こさせ、参議院選挙に突入した。
もう一度、心の涼を求めて、絵をイメージしたとき思い浮かんだのが、涼やかな黒田清輝の代表作《湖畔》(東京国立博物館)蔵だ。子どもの頃記念切手(1967年発行)で初めて見た。大きく描かれた水面と大人の女性が持つ円い団扇からの凛とした風を感じた。
日本近代絵画の研究家であり、黒田清輝研究の専門家である田中淳氏(以下、田中氏)に、《湖畔》の魅力を伺いたいと思った。田中氏は2008年に発行された『黒田清輝《湖畔》美術研究作品資料 第5冊』(中央公論美術出版)の巻頭で「序論 黒田清輝《湖畔》を語るために」を執筆、現在東京文化財研究所の企画情報部長を務めている。東京・上野の黒田記念館を訪ねた。