デジタルアーカイブスタディ
アート・アーカイヴとは何か──連続シンポジウムを総括する
渡部葉子
2013年04月15日号
2013年3月23日、慶應義塾大学にてアート・アーカイヴに関する連続シンポジウムの最終回が開催された。このシンポジウムは芸術に関するアーカイヴの問題を取り扱う連続的な企画として進められ、2010年度より3カ年にわたって開催されたものである。この連続シンポジウムは最初から設定されたプログラムが存在したわけではなく、前年のディスカッションを受けながら、各回の登壇者を依頼して実施してきた。そのなかでアーカイヴの問題を議論して、掘り下げてきたという経緯がある。これに先立って、2010年6月にはアート・ドキュメンテーション学会年次大会シンポジウムがアーカイヴをテーマとして開催され、このシンポジウムも含めた4回のシンポジウムをアーカイヴに関わるディスカッションとして、まとめてレポートしたい。
2010年6月 アート・ドキュメンテーション学会年次大会シンポジウム
「アート・アーカイヴ─多面体:その現状と未来」
・「アート・アーカイヴとコニュニケーション」……渡部葉子(慶應義塾大学アート・センター)
・「野島康三アーカイヴの形成と公開」……光田由里(渋谷区松濤美術館)
・「東京藝術大学におけるアーカイヴ構築準備作業および資料保存──公開の現況」
……吉田千鶴子(東京藝術大学美術学部教育資料編纂室)
・「建築アーカイヴ─いま、そこにある危機」……山名善之(東京理科大学)
・「舞踊アーカイヴの形成に向けて」……松澤慶信(日本女子体育大学)
ディスカッション・モデレーター:水谷長志(東京国立近代美術館)
この起点となるシンポジウムでは、さまざまな分野でアート・アーカイヴに関わる発表者から各自のケースについて報告がなされ、それを受けて討論を行なった。まずは多分野でのケースを示し、議論に場を拓く機会であったと言えよう。そこでは、美術、写真、建築、舞踊など分野がさまざまであっても、「ドキュメント」という共通項をもってディスカッションが可能となっていった。アーカイヴで扱う「モノ」について、データの採取方法や項目の問題、資料保存の問題、そしてこの後、毎回言及されることになる人・資金の問題などについて、現状確認と課題の明確化が行なわれた。学会の年次大会ということもあり、政策、法制的なポイントについて語られたのが特徴的だった。
2010年10月 ART ARCHIVES-ONE
「継承と活用:アート・アーカイヴの『ある』ところ」
・「〈アーカイヴ的思考〉の堆積作用」……上崎千(慶應義塾大学アート・センター)
・「資生堂の文化施設とデジタルアーカイヴの現状と今後」……樋口昌樹(資生堂企画文化部)
・「武蔵野美術大学美術館・図書館と造形研究センターが目指すアート・アーカイヴ」
……本庄美代子(武蔵野美術大学美術館・図書館)
・「AAMLは (manuscript + ephemera) archives Today’s Ephemera,
Tomorrow’s Historical Documentation」……水谷長志(東京国立近代美術館)
ディスカッション・コーディネーター:水沢勉(神奈川県立近代美術館)
前回(6月)のシンポジウムでは、関わる分野の違いにバラエティがあったが、この回では、異なる立場でアーカイヴに取り組む登壇者たちからの報告とディスカッションとなった。美術館、大学図書館、大学研究所、企業とそれぞれの立ち位置が違うなかで、アーカイヴに取り組む姿勢やその可能性が違ってくるのは当然であり、それを確認しながら、連携の必要性と可能性を確認し、議論する場ともなった。特に個人資料の扱いに関して、資料の状態を保全することと、それをアーカイヴとして資源化していくことについてさまざまな立場からの意見提出、ディスカッションがなされた。さらにアーカイヴ、資料へのアクセスの可能性を広げること、そのためのネットワークについてなども取り上げられ、次回のテーマとして引き継がれることとなった。