デジタルアーカイブスタディ

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 太下義之氏に聞く:2014年はデジタルアーカイブ元年──誕生20年目の拠点と法律

影山幸一

2014年02月15日号

 デジタルアーカイブという言葉が誕生したのは、1990年代半ばであった。当初その概念は「有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録、その情報をデータベース化して保管、随時閲覧・鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信」として、広く日本で羽ばたいた言葉だった。あの年から約20年、「2014年は“デジタルアーカイブ元年”と後々呼ばれることになるかもしれない」という刺激的な言葉に出会った。発言していたのは、民間のシンクタンクで文化政策を専門としている太下義之(おおしたよしゆき。以下、太下氏)氏であった。その広い領域の文化のなかでも特に美術や演劇への関心は高く、アートシーンや美術館評価、また企業メセナ、創造都市にも詳しく、実物を見る目を養ってきた感性豊かな研究者である。
 2014年のデジタルアーカイブの展望を 1.文化政策とデジタルアーカイブ、2.東アジア文化都市と創造都市、3.デジタルアーカイブ振興法(仮称、以下同)と国立デジタル文化情報保存センター(仮称、以下同)という三つのテーマを軸に話を伺った。

文化政策とデジタルアーカイブ

文化政策について、その定義を教えて下さい。

太下──国や地方自治体による文化政策は税金を原資としているが、それは幸か不幸か無尽蔵ではなく、税金は有限な資源であり、希少な資源であると言ってもいいが、それをどういうふうに使えば、より有効に活用できるのか、ということを考える“社会デザインの仕組み”、それが政策だ。例えば、一億円使う福祉政策でも、ベターな福祉政策とそうでない福祉政策はきっとある。同様に文化政策といった場合には、仮に一億円が原資としてあるとすれば、それを何にどのように使えばよりよい文化振興になるのかを、きっちりとデザインするのが文化政策だと考える。


太下義之氏

日本の文化政策を、よりスムーズにより効率的に展開させるための構想があれば教えて下さい。

太下氏──構想としては、2020年のオリンピックに向けて、スポーツ庁ができると言われている。もし、スポーツ庁ができるのであれば、文部科学省からスポーツ庁を独立させると同時に、これからの日本にとって大事な教育政策については内閣府の直轄にした「教育庁」を新たにつくり、残る文化と科学技術に関してはそれらを合わせ、「文化イノベーション省」をつくればいいと思う。

デジタルアーカイブは文化政策にとって、どのような点が有効(メリット)でしょうか。

太下氏──メリットというより、これからの社会においてはデジタルアーカイブが文化政策の基盤になってくると思う。まずデジタルアーカイブがあって、そのうえで文化政策がどのようにできるか検討されていく。デジタルアーカイブは国土政策にたとえると道路をつくるようなものだが、そのみんなの道路となるデジタルアーカイブをつくるにあたり、国民の理解が得られるように説明し、理解してもらうことがまずは求められる。

日本において今後、文化が経済をリードしていく可能性はあるのでしょうか。文化と経済の理想的な関係を教えて下さい。

太下氏──「経済は文化のしもべである」と、ベネッセ・ホールディングスの福武總一郎会長は仰っているそうであるが、普通に考えても経済だけでこれからの日本が成り立っていけるのかというと難しいと思う。例えば、トヨタ自動車は現在自動車の生産、販売が主力だが、100年後も同じ業態でやっていけるかというとたぶん違うだろう。100年後も同じ業態を続けていたら、たぶんほとんどの会社は存続が危ぶまれるだろう。実際にトヨタの歴史を調べてみても、創業当時には織物を織る織機がメイン事業であり、いまから80年前の1833年に開設された、社内ベンチャーの自動車部が起源である。日本は原材料を輸入し、それを国内で加工し、製品を海外へ輸出するという製造業を中心として発展してきたが、21世紀に入り、そうした従来型の仕組みも限界にきている。その象徴は某大手メーカーの液晶製造工場だと思う。あれだけの高品質な製品は日本でしかできないだろうと、莫大な投資をしたが、あっという間に技術は新興国に追い付かれてしまった。たぶん日本に工場があって大規模なものづくりをして輸出するという経済モデルは、もはや21世紀には成立しない。では何を売っていくのかというときに文化的な要素は必須だと思う。

現在、デジタル文化財の情報発信をしている成功事例を教えて下さい。

太下氏──「Google」(http://www.google.com/)と「Europeana(ヨーロピアナ)」(http://www.europeana.eu/)だと思う。

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