デジタルアーカイブスタディ

ミュージアム・ネットワークのイノベーション ──世界中の浮世絵版画をデジタルアーカイブ

影山幸一

2009年03月15日号

Web浮世絵版画全集

 浮世絵研究のためにデジタルアーカイブする作品を求めていくうちに、赤間氏は国内に留まらずに海外まで行くこととなった。ボストン美術館や大英博物館、 プラハ・ナショナルギャラリーまで足を延ばし、すでにヴィクトリア&アルバート博物館、スコットランド国立博物館、早稲田大学演劇博物館、東京都立中央図 書館などはデジタル化を終えている。
 赤間氏は、シンポジウム1日目の講演「芸術・文化研究における画像データベースの役割」のなかで、浮世絵閲覧システムの詳細表示画面を壇上で示しなが ら、浮世絵研究にとってデータベースがいかに有効かを述べている。「博物館や美術館に収蔵されている浮世絵は、研究者といえども普段は自由に見ることがで きない。博物館や美術館には、浮世絵を所有する“所有権”があり、これは“情報操作の特権”を有することにつながっている。構造上、閉鎖的にならざるを得 ない“業界”に風穴を開けたのが、所蔵品の画像 データベース公開である。また浮世絵版画は同じ作品でも色が異なったり、3枚1組の作品があったり、絵の中に絵が描かれる仕掛けがあったりと、データベー スを活用して瞬時に画像を比較、拡大して研究するメリットは大きい」。
 100万枚とも200万枚ともいわれる大量の浮世絵版画を網羅的に閲覧できる壮大な「Web浮世絵版画全集」も夢でなくなってきたという。

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左:立命館大学の赤間氏
右:「芸術・文化研究における画像データベースの役割」講演中の赤間氏

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浮世絵閲覧システムの詳細表示画面
写真提供:立命館大学アート・リサーチセンター事務局 

立命館大学による浮世絵版画撮影データ

機材

Nikon D3、Canon EOS 5D markIIを併用。海外用に携行可能なセットであるのが特徴で特殊なことはしない。

アプリケーションソフト

カメラメーカー提供のソフト。

画像解像度

カメラに依存。

画像保存形式

RAWデータ。

メタデータ記述方式

カメラメーカーのデフォルト設定に依存。

デジタルデータ保存方法

携行用ハードディスクに保存。通常、撮影時に2セットのコピー、撮影終了時にさらに1セットのコピーを作り、現場に1セット、2セットは別々に持ち帰る。

今後浮世絵版画のデジタル化を予定しているミュージアムなど

チェコ・国立博物館、国立美術館。アイルランド・チェスタービーティー図書館。イタリア・ヴェネチア東洋博物館など。

今までデジタル化してきた浮世絵版画の数、そのWeb公開率

[日本]
早稲田大学演劇博物館:47,000枚─100%公開
東京都立中央図書館:28,000枚(8,000枚は赤間氏がデジタル化。その他は赤間氏が技術提供した業者がデジタル化)─現在は10,382枚、近々100%公開の予定
大阪城天守閣:5,000枚─0%(公開予定なし)
立命館大学アート・リサーチセンター:5,000枚─100%公開
神戸個人:2,800枚─0%(公開予定あり)
東京個人:1,000枚─0%
日本浮世絵博物館:1,100枚─0%、など。
[海外]
ヴィクトリア&アルバート博物館:38,000枚─近々100%公開の予定
スコットランド国立博物館:5,000枚─公開未定
大英博物館:15,000枚─100%、作業が済んだものから順次公開
ドイツ個人:5,000枚─公開未定
ボストン美術館:1,300枚─0%。大判墨摺の番付(歌舞伎番付中心)については公開(枚数は未確認)、など。

デジタルアーカイブポリシー

 立命館大学の研究目的は、デジタル技術と人文科学の関係にあることもあり、デジタルアーカイブを実際に構築する作業も研究範囲に入る。また大学と して学生の教育に寄与することは重要で、この点大学の研究室から出たミュージアムとの交流は学習の機会に恵まれたよい環境となろう。
 ミュージアムからすれば外部の業者に収蔵品のデジタル化を発注するよりも、安全かつ出費を抑えてデジタル化を実現することができ、人手と資金が不足して いるミュージアムにとっては、デジタルアーカイブを実質的に促進させるだけでなく、原物閲覧の頻度軽減や情報の管理、できあがったコンテンツをWebサイ トに公開すれば集客や基金募集などにも有効である。こうしたMUの関係は、MLAの三角関係に一石を投じた形となったが、どこのミュージアムでも大学とタ イアップや連携ができるわけではない。立命館大学のケースのように浮世絵を所蔵する組織同士が、お互いを補完し合う関係でデジタルアーカイブを構築するの は稀なことかもしれない。
 また、このMUの連携で問題を挙げるとすれば、大学のデジタルアーカイブ作業は一時的であり、ミュージアムの収蔵品すべてをまかなえない。このため ミュージアムにとっては一部の収蔵品だけが異なるフォーマットやスペックでデジタル化され、ほかの収蔵品資料との差が生まれる可能性がある。また研究用に撮影されたデータが、ミュージアムのアーカイブ用や販売用に活用できるのかどうかという曖昧な問題もある。さらにデジタル化がたとえオーソドックスでオープンな技術を用いていても、永続的にデ ジタルアーカイブを機能させていくには、保存計画に基づいて技術の更新をミュージアム側で行なわなければならないが、ミュージアム側にデジタルデータを長 期間保存するというデジタルアーカイブポリシーをもった資料管理者の存在が必要である。ミュージアムと大学の連携による人材育成を視野に入れたデジタル アーカイブ構築のイノベーションに期待したい。

2009年3月

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