デジタルアーカイブスタディ
東京大学 研谷紀夫氏に聞く:『デジタルアーカイブにおける「資料基盤」統合化モデルの研究』出版について
影山幸一
2009年07月15日号
対談を終えて
美術品や文化財を保存、鑑賞する目的から誕生したデジタルアーカイブが一般にも広まり、意味が拡張して拡散し、その指針を失いかけているのではないかと、怪しげな雲行きを感じていたところ、一条の光のように、『DA研究』が上梓された。
曖昧さそのものが文化ともいえる日本で生まれた、デジタルアーカイブを何とかして捕らえ直そうとする研谷氏の意気込みを感じた。デジタルアーカイブの言葉の本質を掴み、その15年間の歩みを整理し、研究対象として総括。改めてデジタルアーカイブの理念を見出して、国際的に通用する概念と方法の確立を目指した。デジタルアーカイブを本格的に機能させるため、問題点を7つに絞り、3つの基盤(資料基盤、社会基盤、システム基盤)整備を打ち出した成果は大きい。
さらに、研谷氏は基盤整備の先に人材育成を見据えている。論文では「デジタルアーカイブ学」を提案し、「実物(一次資料)とデジタル資料の間」、及び「デジタル資料そのもの」の“データの質の分析・評価”をする専門家の必要性を求めている。社会で活躍できる環境づくり(就職先)など、サステイナブルなデジタルアーカイブ社会の実現につながることを期待したい。来年の春には資料をデジタル化する方法や基準、その評価について、まとめる予定があるというのも朗報であった。
『デジタルアーカイブにおける「資料基盤」統合化モデルの研究』の目次
序章
1 研究の背景
2 Digital Cultural Heritageの課題の考察とそのアプローチ
3 研究手順
4 本研究の総合的な特色と本研究によって得られる成果
第一章
1 一章の構成内容
2 文化・歴史の研究・記述と資料の関係
3 人文科学の諸研究における資料基盤の課題
4 現代における「資料存在空間」の概要
5 (Ω)関係資料の概要
6 各資料存在空間における課題
7 文化資源のデジタル化とその特徴
8 資料存在空間におけるデジタル技術
9 「θ:Digital Cultural Heritage」の概要とその課題
10 Digital Cultural Heritageの各特徴と人文科学における諸課題
11 Digital Cultural Heritageの現状
12 現状の課題と今後への取り組み
第二章
「[1]Digital Cultural Heritageの基本モデル」の構築
1 Digital Cultural Heritageの各構成要素と必要な技術・方法論
2 「[1]Digital Cultural Heritageの基本モデル」における主要要素と補助要素
3 各技術・手法の設計・構築
第三章
「[2]構築フローモデル」と「[3]Digital Cultural Heritageの評価モデル」の構築
1各技術・手法の設計・構築
2 実際の過程
第四章
Digital Cultural Heritageの構築I〜基本プランニングと構築前タスク〜
1 全体概要
2 「(1)事前調査:A〜Cと既存のリアル・デジタルメディアの調査」
3 (2)全体設計
4 (3)資料内容情報の取得
5 (4)各「資料存在空間」とリアルメディアの構築
6 (5)Digital Cultural Heritageの構築プランニング
7 (5)本番環境の構築
8 (6)実際の行程
第五章
Digital Cultural Heritageの構築II〜Digital Cultural Heritageの構築と実証実験〜
1 Digital Cultural Heritageの構築
2 実証実験
第六章
実証実験を踏まえた各モデルの検証と今後の展望
1 まとめ
2 「[1]Digital Cultural Heritageの基本モデル」に対する評価
3 総合評価
あとがき
索引
研谷紀夫(とぎや・のりお)