アートプロジェクト探訪
地方都市が行なう大型フェスティバルの行方
今回のフェスティバルの総予算は約1億円、そのうちの2/3は助成金と協賛金で、1/3を入場料収入で賄う想定となっているという。地方での大きなイベントであれば、やはり行政機関との関わりは無視できず、今回のフェスティバルでも主催者として別府市が実行委員会とともに名を連ねている。これは資金面での協力もあるが、むしろその他の団体、企業からの助成金獲得の保証機関として機能している面の方が強い。民間の力やアイディアが必要なのにもかかわらず、資金や環境面で行政に頼り過ぎるプロジェクトはどうしてもサステイナビリティの面で不安が残る。山出氏も市民主導で行政が支援するあり方を標榜しており、別府市のスタンスはそうした点で現状に合致していると言えよう。
問題は、入場料収入見込み額の実現である。広報資料によると入場者目標は80,000人としており、東京や大阪等の大都市圏へのPR活動も専門の人材を投入、恒常的な広報活動を実施し、その効果も含めいまはその状況を見守ることとしたい。
なお、今回のプロジェクトへの助成団体である財団法人文化・芸術による福武地域振興財団は、(株)ベネッセコーポレーション代表取締役会長兼CEOである福武總一郎氏が理事長を務める、地域のアートプロジェクトを支える有力な支援機関である。そしてもうひとつの有力な支援機関がアサヒ・アート・フェスティバルを継続的に支援するアサヒビールである。今回の両者の支援にはそれぞれの地域戦略も見え隠れしていると言ってもよいかもしれない。87年から始めている「ベネッセアートサイト直島」の企画運営をはじめ、2010年には瀬戸内国際芸術祭の開催を控え、瀬戸内海で恒常的に事業を展開している福武氏の次なる地域戦略のターゲットは九州であり、キリンとのシェア争いを続ける九州の市場を狙うアサヒビールの標的とされたのが別府であるという穿った見方もできなくはない。こうした企業社会の必然の流れが呼応する只中に、「混浴温泉世界」は解き放たれたと言うこともできよう。地方都市での大掛かりなアートプロジェクトに求められる要素は都市部とは異なる様相も場合によっては多く見られざるを得ない。土地に縛られることの意味と無意味を十分に体得したうえで、真の意味でのサイトスペシフィックな活動が必要となるのである。
ひとまず「混浴温泉世界」にまつわる必然的な流れを記してきたが、われわれにとっての必然は、まずはこのフェスティバルを純粋に楽しむ機会を得、そこでの偶然の出会いにも期待することである。すでに中心市街地の通りやplatformの空間にも多くのアーティスト作品が新たに介入しはじめており、商店街の人の流れも変わりはじめている。この社会実験のひとつとしてのアートプロジェクトがなにをもたらすか否かについては、会期を終えた後々に改めて検証を行なっていくこととしたい。
★1──別府市観光統計「平成19年観光動態要覧(別府市ONSEN ツーリズム部観光まちづくり課)」URL=http://www.city.beppu.oita.jp/02kankou/07toukei/
別府現代芸術フェスティバル2009混浴温泉世界
会場:大分県別府市内約30カ所(中心市街地、鉄輪地区、別府国際観光港他)
会期:2009年4月11日(土)〜6月14日(日)