〈歴史〉の未来

第1回:作品それ自体がデータベースであり、ネットワークであり、コミュニケーションでもあるような

濱野智史(日本技芸リサーチャー)2009年07月15日号

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「七色のニコニコ動画」

 前口上はこれくらいにして、さっそく本題に入ろう。今回取り上げたいのは、先月(2009年6月)ニコニコ動画に投稿され話題を呼んだ作品、「七色のニコニコ動画」である[図1]。同作品は、いわゆる「メドレー」と呼ばれるものに相当しており、ニコニコ動画上でこれまで人気を集めた作品の楽曲・BGMをひとつの楽曲としてつなげ、アレンジしたものとなっている(その詳細はニコニコ大百科の解説記事に詳しい)。作者は「しも」と呼ばれる人物で、ニコニコ動画が開設されてまもない2007年6月に、「組曲『ニコニコ動画』」というメドレー作品を公開し、一躍有名となった。同作品は、現在500万以上の再生数を獲得しており、ニコニコ動画の歴代作品のなかでも常に上位にランクし続けている。

 1──七色のニコニコ動画

 さて、この作品が多大なる人気を博しているのは、ごく端的にいってしまえば、必ずしもその作品の「内容」、つまり音楽作品としての「質」によるものではない。では何か。それはひとことでいえば、作品それ自体がデータベースであり、ネットワークであり、コミュニケーションでもあるというような、「形式」的な特徴に認められる。
 それはどういうことだろうか。まず抑えておくべきことは、ニコニコ動画においては、「N次創作」と筆者が呼ぶような現象が全面化しているということだ。「N次創作」とは、いわゆるオタク系文化圏を中心に行なわれてきた「二次創作」と呼ばれる行為に対する、筆者の造語である★2[図2]。「二次創作」の場合、マンガ・アニメ・ゲームといった商業系コンテンツを一次作品(オリジナル)として据えたうえで、そこから二次的な作品を派生的に創作することを指す。これに対し、いまニコニコ動画で起きているのは、一次・二次というワンホップの派生関係ではなく、さらに三次・四次・五次……と派生関係が伸びていく、マルチホップ的な相互引用・協働創作の連鎖現象である。そこでは、ありとあらゆるものが引用ないしは派生創作の──端的にいえば「MADムービー」の──対象となりうる。


2──二次創作とN次創作

 

★2──「N次創作」については、前掲書および、以下の論文でも詳述した。濱野智史「ニコニコ動画の生成力(ジェネレイティビティ)──メタデータが可能にする新たな創造性」(『思想地図』Vol.2、東浩紀+北田暁大 編、NHK出版、2008)。

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濱野智史

1980年千葉県生まれ。株式会社日本技芸リサーチャー。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。著書=『アーキテクチャの生態系』...

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