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Dialogue Tour 2010

第7回:MACとhanareと保育所設立運動@Social Kitchen[ディスカッション]

会田大也/須川咲子2011年04月01日号

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サイエンスと運動の関係

会田──坂東さんの運動の達成は、時代の機運が追い風としてあったとのことですが、坂東さん自身が科学者であることも寄与しているように思えます。さきほどおっしゃっていた「論理的に正しくない」という発言を聞くと、科学者という立場がこの運動に強く影響していたのだと想像できますが、サイエンスと運動の関係についてどのようにお考えでしょうか。

坂東──政策提言するためには、それに必要なデータをわれわれがきちんと示して説得しないといけないですね。保育所設立運動をやるときも、全国でどうなっているのかを調べたら、共同保育をやっていたところが成功していることがわかったわけです。それなら、「われわれもやらなあかん」となるし、女性がいつ仕事をやめるのかを調査して、子どもが生まれたらやめる、それまではやめませんというデータが出たら、方針として「子どもの問題やな。保育所やな」ということが導き出せますよね。市民運動でもそういう視点は大事だと思うんです。知られていないかもしれませんが、ナイチンゲールもデータを示して相手を説得しています。

会田──そうなんですか。

坂東──ナイチンゲールは、戦場に赴いて、現場の病院の衛生状態の悪さを目の当たりにしました、彼女は統計学会員で、アドルフ・ケトレーと一緒に活躍していました。ですから、他の国の軍隊の病院と比較して死亡率が高いことを示したのです。グラフを描くのは子どもじみていると思われており、統計屋のすることではなかったのですが、彼女はあえて統計結果をグラフで描いたんです。病院の衛生環境と死亡率の因果関係を示すことで、上の人たちを説得して、劇的に野戦病院の衛生状態を変えることができました。やっぱりね、データを持って説明すれば、相手も聞いてくれるようになるんですね。

会田──それは、すごく専門性が高くて高度な科学とは別の、調査をして数字を出すという基礎的な意味での科学ですよね。それはけっして特殊能力を身につけた、一部の天才だけがつかえるといった難しいものではなくて、いろいろな人がその技や方法をコピーしたりまねすることができるはずですよね。ほんのちょっとの手法の伝達だけで。

パワーの引き出し方

坂東──会田さんに聞きたいことは、お母さんのパワーをどうやって引き出すかということです。彼女たちの能力はものすごいですよね。

会田──山口市には、子どもを預ける親と子どもを預かる支援者をつなぐためのネットワークブックみたいなものがあるんですね(『あずけちゃお』『まなびっちゃお』)。この本はじつは山口市がつくっているものではないんです。子どもを持つお母さんたちが助成金をとってつくっています。イラストもデザインもそうした経験があるお母さんがつくっています。

坂東──能力とパワーがあるのよね。

会田──そうなんです。普段は、職場が遠く離れていて別居である僕ら夫婦は、現在育児休職中の期間だけ、MACで一緒に暮らしているんですが、自分の奥さんの生活を見ていてもパワフルだなって思うことがあります。子どもたちを寝かしつけて夜10時くらいから、他のママたちと一緒にあたらしい冊子作りのためにメールでどんどんデータをやり取りをしています。原稿をつくって校正を出して、デザイン修正の指示出し……、そしてその流れは、限られた時間のなかでやりくりしているので、無駄が少ないように見える。この人たちはこれだけの能力があるんだったら、会社を起こしたら儲かるんじゃないかと思うんですね。

坂東──そうやね。ほんまにそう思うわ。

会田──すごい能力だし可能性だと思っています。お金儲けじゃなくて自分たちが必要だからやっているのでモチベーションがすごく高い。それで、いろいろな折りを見て話を聞いてみると、「こんなことにチャレンジしてみたい」「やり方はわからないけど、こんなものをつくってみたい」という思いが強いことがわかりました。だから、工作教室をやった後の放課後のような時間はすごく大事なんですね。イベントとかだけではバタバタと片づけて「お迎えいかなくちゃ!」「ご飯の準備するねー」と帰ってしまうのですが、たまに見つけたそういう余白時間の会話が重要なのかもしれないです。あとは、子育て支援に限定した話だけではなくて、「チャレンジしてみたいことってぜんぜん役に立たなくてもいいんだよ」と少し後押しすることで、どんどん話題が膨らんできて実現につながっていくことを日々実感しているところですね。


左から、坂東氏、会田氏

坂東──なるほどね。でも、役に立たなくてもいいというのは、科学者にはきつい言葉なんですよ。私らは基礎科学をやっていますから、「それなんの役に立ちますの?」と言われても、そんなにすぐには役には立たないわけですよね。役に立つことというのは、儲かることへすぐにつながることでそれも大事ですけど、役に立たなくても楽しいことがあって、それもやっぱり人間には必要で大事なことのような気がするんですよね。

会田──そういった話とは縁遠いと思われている芸術ですら「それはなんのために役に立つんですか?」ということをずっと問われています。特に、税金をつかってやる仕事の場合は余計そうかもしれない。「これがどんな役に立つのですか?」ということをつきつけられられて仕事をしているキュレーターや学芸員はすごく多いです。MACの場合は本当に小規模だし、プライベートの活動として勝手にやっていることなんですが、これがすごく大きい運動になるとか、なにかの役割がMACについてくると、逆にやれないことが増えてくる気もしています。そのへんの方針は僕のなかではまだ解答を出していないです。ただ、こういう活動は続かないと意味がないですよね。文化は何十年も続いてこそだし、子育ても2,3年で終わることではないので、数年のブームでは終わらせたくないと思っています。なので、「続けるためにはなるべくコストをかけない」「苦労しない」ということがすごく重要で、このことについては積極的・意識的にやっていきたいです。誰かが疲れていたらフォローするし、無理しないようにしようという感じです。

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  • Dialogue Tour 2010とは

会田大也

1976年生まれ。ミュージアムエデュケーター。東京造形大学、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)卒業。2003年より、山口情報芸術センター[...

須川咲子

1978年生まれ。hanareディレクター/ウェイトレス。ニューヨーク市立大学卒業。大学在学中から、フリーで写真展や、「Open Unive...

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