毎月1日、15日号発行の美術館・アート情報をお伝えするWebマガジン(次回12月15日更新予定)

artscape開設15周年記念企画

PROJECT 01:Dialogue Tour 2010──人、コミュニティ、議論をつなぐ

はじめに──現代美術2.0宣言

 かつて現代美術と見る人の接点は、美術館やギャラリー、大規模な国際展、行政や大学などが主導するアート・プロジェクトなどであった。そこではワークショップやボランティアなど、理念として主体的な参加がうながされることがあったとしても、しっかりした組織があらかじめ用意した場に、部分的に参加するだけに限られていた。いかに既存の制度に対抗する場に見えたとしても、人に知ってもらえるほどの規模で作品展示やプロジェクトを行なうためには、それなりの予算や人手が必要であり、そのためには、助成金を獲得するスキルや、大勢の人をマネージメントするための組織、そして人を巻き込むだけのリーダーの有名性とバイタリティが必要であったのだ。村上隆も中村政人も北川フラムも、リーダーとして最大の努力をして、GEISAIや3331や越後妻有といった新しい場を切り開いてきた。

 しかし、そこにtwitterなどのソーシャルメディアが登場した。努力してスマートなウェブサイトを立ち上げるどころか、パソコンに向かうことすらなく、ちょっとした空き時間にiPhoneからイベントの告知ができ、イベントの最中に、レポートを届けることができるようになった。さらに、ソーシャルメディアはネットワークを生成する。「今晩集まるよ」という告知が、関心ある人のもとへ瞬時に届くようになったのだ。このことと、地方都市における家賃の安さという要因が組み合わさり、この3年ほどのあいだに、日本の地方都市において、新しいスタイルのアートスペースが同時発生的に生まれた。それは、自宅やアトリエの空き部屋や、わずかなお金を出し合って借りた共有のスペースを拠点とし、その都市に外から人が訪れたことをきっかけとし、飲み物や食べ物を持ち寄って集まり、その場で議論や作品の発表を行ない、それをブログやUSTREAMなどを通じて発信するというスタイルである。これにアーティストの滞在や制作場所の提供が加わることもある。

 こうした活動の特徴は、とにかく「ゆるい」ということである。たいした助成金ももらっていないので、「年間の事業計画」をでっちあげる必要もなければ、「地域の活性化に貢献する」必要もない。家賃もほとんど不要で、チラシの印刷費や郵送費すら必要ないので、集客に心を配る理由もない。そのため、頑張る必要もなければ、マネージメントや組織すら必要ないのだ。twitterでゆるやかに繋がって、面白そうな人をキャッチするアンテナさえ張っていて、おいしいお酒と手作り料理さえあればよいのである。そこでは、アーティストもキュレーターも常連客も混然一体となり、面白そうな情報を選別しRTし、集まったときにプロジェクターでプレゼンをすることが誰もの仕事となる。また、かつてのオルタナティヴ・スペースが、美術館やギャラリーへの対抗的意識によって支えられていたことと比べると、こうした活動にはそうした二項対立的意識は希薄で、むしろ既存の組織に対し寄生的、相互補完的である。美術館の人的ネットワークを流用しつつ、公の施設では扱いにくい不確定な部分をカバーする。

 ゼロ年代の末に日本の地方都市に誕生したこのようなゆるいスタイルは、しかし、単なるスタイルにとどまらない大きな変化を示している。その変化に目を向けるために行なうのが、「現代美術2.0」をテーマに掲げたダイアローグ・ツアーである。「2.0」は、ティム・オライリーが提唱した「Web 2.0」の考え方による★1。ここではとくに、「送り手(生産者)と受け手(消費者)の関係が流動化した状態」と「その結果生まれる双方向的なソーシャル」を指す。主催者、アーティスト、参加者、観客という関係が流動化し、誰もが告知をRTし、誰もが中継するという状態では、特権的なリーダーや主体は存在しない。

 ダイアローグ・ツアーは、このようなスタイルで活動する全国8カ所の団体を巡るツアーである。地方の活動の情報を東京に集めるのではなく、また、ある人が旅人/観察者として順番に回ってゆくのでもなく、各団体が1回ずつホストとゲストをつとめ、ディスカッションを行ない、レポートしてゆくものである。ここで選んだ団体は、決して特別な8カ所ではない。わたしたちが望むのは、カタログとしての網羅的な紹介ではなく、ホスト/ゲストの関係性が解放された持続可能な活動と、このリサーチから美術を超えた汎用な思想を導き出すことだからである★2

★1──オライリーによる初期の定義は下記を参照。「旧来は情報の送り手と受け手が固定され送り手から受け手への一方的な流れであった状態が、送り手と受け手が流動化し誰でもがウェブを通して情報を発信できるように変化したwebを『Web 2.0』とする」(引用出典=http://ja.wikipedia.org/wiki/Web_2.0)。
★2──当初、この後に以下の文があったが、ツアーの過程で各活動の紹介とコンセプトに関するディスカッションを中心とすることに変更したため削除した(2011年11月1日)。「各活動の紹介に加えて行なうディスカッションには、3つのテーマを掲げる。「教育」「公共性」「コミュニティ」である。「2.0」という大きな変革に沿った新しいスタイルの追求は、当然美術のなかだけの議論にとどまることはない。生成される場を教育の現場ととらえ、従来の学校教育論/生涯教育論を超えてゆくことが必要である。また、私的なサークルに限りなく近い、こうした場は、公共圏でありうるのか。そして、地域やコミュニティとの関わり方は、この場の社会との繋がり方を探るうえで恰好のテーマとなる。これからの議論を通じて、美術、教育、公共圏、コミュニティの大きな変革を浮き彫りにしてゆきたい。」

[2010年7月7日、鷲田めるろ+artscape編集部]

Dialogue Tour 2010──人、コミュニティ、議論をつなぐ:目次

企画概要(スケジュール、話者紹介など)
第1回:Midori Art Center(MAC)@ホテル山上(ゲスト:後々田寿徳/梅香堂)[2010年8月16日更新]
第2回:かじこ|Kajico(ゲスト:須川咲子/hanare)[2010年9月15日更新]
第3回:Maemachi Art Center(MAC)(ゲスト:宮城潤/前島アートセンター)[2010年10月7日更新]
第4回:CAAK, Center for Art & Architecture, Kanazawa(ゲスト:中崎透/遊戯室)[2010年10月15日更新]
第5回:遊戯室(ゲスト:蛇谷りえ+三宅航太郎+小森真樹/かじこ)[2011年1月17日更新]
第6回:前島アートセンター(ゲスト:服部浩之/Midori Art Center)[2011年2月15日更新]
第7回:hanare(ゲスト:会田大也/Maemachi Art Center)[2011年4月1日更新]
第8回:梅香堂(ゲスト:鷲田めるろ/CAAK)[2011年5月1日更新]
特別インタビュー:妹島和世インタビュー「新しい公共性について──2000年以降の建築実践」[2011年2月15日更新]
総括1:芹沢高志×鷲田めるろ×光岡寿郎「2000年以降の日本各地のアート・シーンを振り返る」[2011年9月15日更新]
総括2:鷲田めるろ「静かな変革の痕跡──『Dialogue Tour 2010』を振り返って」[2011年11月1日更新]

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2016年12月01日号