フォーカス
「レオナール・フジタ──私のパリ、私のアトリエ」展 縮小された室内空間で上演されるスペクタクル
小澤京子
2011年09月15日号
ドールハウスと劇場性
子どもたちを描いた小品シリーズには、サーカスの舞台のような、あるいは人形芝居の装置のような、書割りめいた奇妙な背景が頻出する。《目玉焼きをつくる少女》や《三人の少女》といった作品──いずれも今回の「新発見資料」である──には、近景の上部と左右に、ドレープを寄せた緞帳が描かれている。《白いドレスの少女》と《赤ずきんの少女》の対作品においては、このカーテンはスカラップ状の装飾紋様に近づいている。緞帳とスカラップ模様の両者は、後の「小さな職人シリーズ」にも継承されている。これらは、絵の内側に描かれた額縁としての役割も担っているであろう(付言するなら、《二人》と題された作品の少女を取り囲む二本の葡萄の木も、この額縁/カーテンと類似の機能を持っている)。
極彩色のチェッカー柄の床や、背景に描かれた奥行きのない閉鎖空間、あるいは書割りじみたバルコンや
実際フジタは、19世紀頃のアンティーク・ドールを何体も蒐集していた
親密さ( の画家としてのフジタ
本展で取り上げられた作品群が浮かび上がらせるのは、室内空間の画家としてのフジタの姿である。それは個々の人間が現実の日常生活を営む領域というよりもむしろ、世界を縮小した模型であり、しかし完全に密閉され、外部との交通を許さない内部ではなく、スペクタクル性を想定した舞台のような空間である。
本展で提示されているのは専ら、裸体で寝台に横臥する女性や子ども、あるいは動物たちの棲む領域を、つまりは私的で親密な、ミクロコスモスめいた室内空間を、一種の劇場として描き出した画家としてのフジタなのである。このことは一見すると、本展にも数点出展されているフジタ自身の自画像と、二項対立図式を形成するかのようでもある。大人の男性であり、着衣の姿──対社会的な装い──であり、そして「自画像」という
フジタは1966年、フランス北部の街ランスに聖母マリアに捧げた小さな聖堂を建てている。それは西洋建築史において聖堂がしばしば担った役割、すなわち権力や権威の衒示手段や、民衆の教化と説得のための方策からは遠く離れた、彼自身の内的な信仰と美意識の空間化であった。彼はその最晩年に、聖堂として「世界の縮小模型」の究極形を具現化したのかもしれない。
レオナール・フジタ 私のパリ、私のアトリエ
会場:ポーラ美術館
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
tel. 0460-84-2111
会期:2011年3月19日(土)〜2012年1月15日(日)
開館時間:9:00〜17:00 *入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
関連イベント:レオナール・フジタ展ワークショップ「フジタの線で描こう!」
あの乳白色はどうしたら出せるの? どうやって油絵具の上に細い墨の線を描いたの? そんなレオナール・フジタの技法の謎を解く鍵を探求するワークショップです。
開催日:10月8日(木)13:00〜16:00
応募締切:9月30日(金)
料金:1,500円(入館料別途)
詳細:http://www.polamuseum.or.jp/event/index.php