会期:2024/03/29~2024/08/12
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2[東京都]
公式サイト:https://www.2121designsight.jp/program/future_elements/

未来をどう描くのか、これほど難しいことはない。漠然と理想的な社会や人々の幸せな暮らしを思ったとしても、そこに到達するために具体的に何が必要なのか、どのようにすれば叶うのかなど、皆目見当がつかないことは多いからだ。雲をつかむような話とはこのことである。結局、人はいまある何かを手掛かりにして想像する。無からは何も生まれず、さまざまな経験やデータの蓄積があって初めて創造できるのだ。本展を見て、そう強く感じた。

「未来のかけら」として並んだ展示品は、いくつかの部類に分けられるが、なかでも象徴的なひとつが身体拡張だった。義足や義手をはじめ、人の背中に長い4本の義手を取り付けた「自在肢」と名づけられたプロトタイプや、JAXAと共同開発中という、人が単体で空を飛べる装着型のジェットエンジンなどがあった。身体能力をより高めたいという望みは、人類史上のなかでずっと変わらずあり、それが科学技術の発達を促す動機にもなってきた。一瞬ギョッとするが、「自在肢」はおそらく昆虫がヒントになっているのだろうし、ジェットエンジンは鳥がヒントになっている。つまり人が憧れ求める高度な身体能力の手本は、自然界にある動植物であることが多い。


会場風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2[撮影:木奥恵三]
山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」


会場風景 21_21 DESIGN SIGHTロビー[撮影:木奥恵三]
山中研究室・村松 充+宇宙航空研究開発機構(JAXA)・ミズノ「emblem」

本展の目玉のひとつであるロボット分野でも、人を真似たヒューマノイド型は欠かさず研究対象となってきたし、自動車型やバイク型などはいまあるプロダクトを起点にして発展させたものだ。また造形研究においては、一見ユニークに映るプロトタイプもたいてい既存の幾何学形態から出発している。ようするに本展は「未来のかけら」を少しだけ見せてくれるが、それはあくまで現在の延長線上にある未来ということだ。それは当然である。これまでも科学は日進月歩で発展してきたのだから、一足飛びというわけにはいかない。SFなど空想の世界でも、たいてい現在の延長線上にある未来だ。人はそうして少しずつ想像と創造を繰り返し、過去を大きく振り返った際に、あぁ、科学はずいぶん進化したと思うのである。あと十年後にまた、本展で紹介された「未来のかけら」を見て検証してみたい気持ちになった。


会場風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1[撮影:木奥恵三]
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治「Robotic World」


鑑賞日:2024/03/28(木)