リニューアルのタイミングで、メルマガに掲載していた「編集人のひとりごと。」をアレンジして記事として連載していくことになりました。 著者とのやりとりや取材での出来事、心に留まったこと、調べ物で知ったこと、考えたことなど、つらつら書いていきます。また、開設から30年近い記事がすべて読めるartscape。過去の記事も掘り起こして紹介させていただきたいと思います。編集スタッフが交代で月に2回配信していきます。読者のみなさまには箸休め的な感じで楽しんでいただけると幸いです。

先月下旬にリニューアルしたartscape、新しいサイトの使い心地はいかがでしょうか(SNSなどでのご感想も早速ありがとうございます。いただいたご意見も参考に、リニューアル後も展覧会検索をはじめ、より使いやすいサイトへの改善を目指して編集部内で検討を重ねているところです)。

4月上旬に公開された内野儀さんの記事「オペラを追跡する──コトブス州立劇場とベルリンの三つの歌劇場における〈演劇的現在〉」では、ドイツ・ベルリンの舞台芸術において大きな存在感をもち、長い歴史のなかで劇場文化の一翼を担うオペラというジャンルに焦点を当てた原稿を書いていただきました。

日本では演劇やバレエよりも比較的マイナーなイメージをもたれがちなジャンルかつ、編集を担当した筆者にとっても正直馴染みの薄かったオペラ。特にその演出のなかで近年起こっているさまざまな挑戦的表現を、演劇と照らし合わせながら読み解くテキストは、古典的なオペラのイメージを大きく塗り替える読み応えなので、未読の方はぜひ。


舞台芸術に関連して、国内に目を移してみると、東京都渋谷区、駒場東大前にある小劇場「こまばアゴラ劇場」が経営上の都合により閉館することを決めたという突然の報が昨年12月に流れ、演劇ファン一帯がどよめいたのもつかの間。2024年5月末の閉館に向けて、劇場主宰の平田オリザさん率いる劇団青年団の「こまばアゴラ劇場サヨナラ公演」が先日から始まったところです。

過去にartscapeレビューなどでも取り上げられた、ここで上演された演劇作品は数え切れないほど(ごく一部を抜粋)。

20歳の国『長い正月』|山﨑健太:artscapeレビュー(2024年02月15日号)
したため#8『擬娩』|高嶋慈:artscapeレビュー(2023年03月15日号)
ほろびて『あでな//いある』|山﨑健太:artscapeレビュー(2023年02月15日号)
小田尚稔の演劇『罪と愛』|山﨑健太:artscapeレビュー(2021年01月15日号)
犬飼勝哉『木星のおおよその大きさ』|山﨑健太:artscapeレビュー(2018年07月01日号)
Q『妖精の問題』|木村覚:artscapeレビュー(2017年10月01日号)
杉原邦生 演出『14歳の国』(キレなかった14才♥りたーんず)|木村覚:artscapeレビュー(2009年06月01日号)

あれもこれもここで観た。気鋭の若手カンパニーから中堅、ベテランまで、シアターゴアーからすると高頻度で足を運ぶ、東京の小劇場演劇を語るうえでも最重要な場所のひとつなだけに、その衝撃は筆者のなかでも尾を引いています。

複数の人が一箇所に集まって同じ時間を共有するということ、そしてそんな場所を構え維持・運営していくことへの人々の意識は、パンデミックの間じゅう更新され続けましたが、自分にとっても、最初の緊急事態宣言が明けてから演劇作品を最初に観たのもこの劇場でした(2020年9月、五反田団『いきしたい』)。

本当に久々だったな、こんな体験をしたのは。そう意識させられながら、高濃度の温泉につま先から全身をゆっくり浸していくような、皮膚がピリピリするような不思議な感覚に包まれて、舞台上の役者たちを凝視し、台詞に耳をそばだてたたのを強く覚えています(ちなみに2020年の同劇場での公演履歴をいま振り返ると「【公演中止】」の文字がずらっと並んでいて、そこからの時間の経過に呆然とします)。

閉館に際して、他メディアでは平田オリザさんのインタビュー記事も公開されています。

「劇場はたんに芝居を観せる場所ではなくて、やはりつくる場所なのだろう」「じつは、支援会員制度はもっと普通に普及すると思っていたんですよ。ただ、開始から20年経ってもそうはならなかった。劇場に芝居を観に行くことが当たり前になるような文化を日本にもつくりたいと思ってやってきましたが、ここはまだまだですね」(「閉館目前に平田オリザが語った、こまばアゴラ劇場の先駆性。『民間の小劇場としてやれることは限界までやった』」、美術手帖ウェブ、2024年3月24日公開)。先述の内野さんの記事においても言及されていた、「レパートリー」(劇場が年間を通して、また年度をまたいでも、繰り返し上演する演目)が背負うミッションや、全公演を劇場主催とし、つくる人や観る人を育てる土壌づくりについても、こまばアゴラ劇場はつねに意識的でした。

「こまばアゴラ劇場サヨナラ公演」は5月中旬まで開催、当日券なども公演によっては出ている様子です。劇場近くの「クンバ ドゥ ファラフェル」でお腹を満たしてから、歩いて劇場に向かうのが筆者にとっては近年お気に入りのコースでした。

今後青年団は兵庫県豊岡市の「江原河畔劇場」に活動の軸足を移していくということで、小劇場をとりまく東京の地図もまた少しずつ変わってくるのだろうと思います。街と劇場文化にこれからも絶えず起こっていくであろう新陳代謝を、引き続き楽しみにしていきたいと思います。(G)


関連リンク

こまばアゴラ劇場 閉館特設ページ:http://www.komaba-agora.com/2024/04/15957
現代口語演劇(Artwords®):https://artscape.jp/artword/5883/