会期:2024/03/15~2024/06/09
会場:京急線日ノ出町駅、黄金町駅間の高架下スタジオ+周辺のスタジオほか[神奈川県]
公式サイト:https://koganecho.net/koganecho-bazaar-2024/

横浜トリエンナーレと同時開催となった今年のバザールは、テーマ別に8章立てとなっている。高架下のギャラリーで開かれている第1章「黄金町ゆかりのアーティスト」は、黄金町界隈の先人たちによる作品展。シベリア抑留を経験し初音町に住んだ小幡春生は、沖縄のガマでの集団自決や仏画などを確かな筆致で描き、横浜の民話を取材して挿絵とともに1冊の本にまとめている。こんな知られざる画家がいたとは。近所で豆菓子店を営みながら地域の浄化運動に携わってきた谷口安利は、赤レンガ倉庫や竜宮旅館と呼ばれた建物など大岡川沿いの移りゆく街並みを写生。再開発によりいまでは見られなくなった風景は貴重な記録になっている。

第2章「黄金町の現在」は現役のレジデンス・アーティストによる展示。黄金町ならではの場所性を生かしたのが寺島大介のインスタレーションだ。いわゆる「チョンの間」を改装したミニレジデンスの狭小な螺旋階段に、絵や工作物やガラクタを足の踏み場もないほどぎっしり詰め込んでいる。これはいいとか悪いとかの問題ではなく、ここでしか制作できない、ここでしか体験できない展示なのだ。

外部からアーティストを招く第3章「草枕プロジェクトⅢ 旅する思想」は、なぜか屋外展示が多い。ビルの屋上に家具や自転車、タイヤなどの廃棄物を積み上げて空へ続く階段を制作したのは井上修志。「ヤコブの梯子」のつもりかと思ったら、石巻市の日和山にある階段を延長したものだそうだ。作者は震災当日、多くの人たちとともにこの階段を登って津波から逃れたという。いずれにせよ天国への階梯であることに違いはないだろう。高架下の広場では、本間純がコの字型のスロープをつくり、その上にデュシャンの《自転車の車輪》がハニワ、壺、キクラデスの彫刻、仏頭など古今東西の美術骨董品に徐々に変化していく過程を提示。最後のコーラ瓶はウォーホルか。


井上修志《日和山の階段を新しい視点まで延長してみる》[筆者撮影]

第4章「アジアとの交流」はまだアジアからアーティストたちが来日していないので省略。第5章「還ってきたOngoing」は、吉祥寺のアートセンター・オンゴーイングのアーティストたちが1軒の家を丸ごと改装した展示スペースで行なっているグループ展。まず目を引くのは、建物の外壁に「質&買取」の巨大文字を掲げ、ドアや窓に時計やバッグなどの写真を貼りつけた柴田祐輔のインスタレーション。これじゃあ質屋と間違えて入ってくる人がいるかも。と思ったら、後日「生鮮食品」の看板に替わっているではないか。会期中何度か替えていくそうだ。玄関を入ると、柴田自身が蕎麦屋の兄ちゃんに扮した写真が額装されていて笑える。

1階の奥の部屋にはスピーカーがあり、グアングアンと音を立てている。これはなんだろう? 2階に上ると、奥に手術台のような金属製のテーブルの上に氷が置かれ、排水口からチューブが床に開けた穴を通って下に抜けているようだ。いったん1階に降りて裏口から奥の一室に入ると、一段高い床に銀色の金属製の物体が鎮座し、上から水滴が垂れてジュッジュッと音を立てて蒸発している。金属の内部は高温に熱せられているのだろう。2階の溶けた氷水はここに落ちていたのだ。その横にマイクが仕込まれているので、その蒸発音が壁を隔てた隣の部屋のスピーカーによって増幅されていたのだ。ひとつずつ見てもわからないし、同時に見ることもできないが、3つ見て頭のなかでつなげると、すべて連関していることが了解できる。和田昌宏の《Songs for My Son》という作品。これは現代社会の、いや世界の縮図か。もう第6章以下は省略。


和田昌宏《Songs for My Son》[筆者撮影]

鑑賞日:2024/03/30(土)