会期:2024/04/24~2024/09/01
会場:森美術館[東京都]
公式サイト: https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/theastergates/

「アフロ民藝」という言葉を最初に見たとき、どうしてもアフロヘアのイメージが先立ち、それと民藝とがいったいどう結び付くのか全く想像がつかなかった。が、本展を観てみると、非常にコンセプチュアルで革新的である。アフロとはアフリカ系を指しており、米国における公民権運動をはじめとするブラック・パワーを表わしていた。同運動のスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の民藝運動の哲学とを融合した、独自の美学が「アフロ民藝」というわけである。どちらも白人主導の下で行なわれた、近代化と欧米化という外圧への抵抗運動として両者を掲げている。この言葉を生んだのは、アフリカ系米国人としてシカゴに生まれた、アーティストのシアスター・ゲイツだ。

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」森美術館(東京)展示風景(2024)[撮影:来田猛 画像提供:森美術館]

確かに日本は明治時代より国をあげて近代化を推し進め、脱亜入欧を目指してきた。問題は近代化=欧米化だったために、それまで築き上げてきた自国文化との乖離が浮き彫りになったことだ。民藝運動にも、近代化により切り捨てられ、忘れ去られていく土着的な民衆文化への眼差しがあった。そうした非白人・非欧米という点で、両者は似ているのかもしれない。が、勝手な先入観かもしれないが、民藝運動は黒人解放運動ほど虐げられた歴史を背負ってはいないのでは? という疑問も湧く。この点で両者を結び付けることにやや違和感を覚えたものの、それでも新しい美の概念を打ち立てて発信する行為には好感を持てた。

展示作品の陶芸や彫刻を見ると、黒を強く打ち出した造形には心しびれるものがあった。こんなに力強い作品は日本人にはなかなか作れないのではないかと思う。そこでふと浮かんだのは、17世紀頃、欧州の王侯貴族を熱狂させた真っ白な磁器である。大航海時代にマルコ・ポーロが持ち帰ったことを機に始まった、中国、日本からの輸入品を彼らは珍重した。いまでも白人は磁器の白さにこだわることと、ゲイツの陶芸のように黒人が黒をアイデンティティとして創作活動することとは、何か表裏一体のように思えてならない。

シアスター・ゲイツ《ドリス様式神殿のためのブラック・ベッセル(黒い器)》(2022-2023)ほか、「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」森美術館(東京)展示風景(2024)[撮影:来田猛 画像提供:森美術館]

本展でもうひとつ私の心を捉えたのは、ゲイツが愛知県常滑市で陶芸を学び、以来、20年にわたって地域の人々と交流を持ち続けてきたという経歴である。最後には常滑焼をリスペクトした見事な展示があり、目を奪われた。実は愛知県出身である私にとって、常滑焼は最も身近な陶磁器だ。子どもの頃に慣れ親しんだ常滑焼がこんな風に大胆に取り上げられるとは! どこか気恥ずかしさと嬉しさが入り混じりながら眺めたのだった。

《小出芳弘コレクション》(1941-2022)ほか、「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」森美術館(東京)展示風景(2024)[撮影:来田猛 画像提供:森美術館]

鑑賞日:2024/05/25(土)