会期:2024/09/04~2024/11/24
会場:TOTOギャラリー・間[東京都]
公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex240904/index.htm

建築の展覧会というと、写真や図面、模型、構造や素材の一部などを展示しながら、来場者の頭のなかで全体像を想像させるという手法がよく取られるが、本展は少し異なっていた。まず、1フロアの壁面いっぱいにドローイングが描かれている。山や谷、林が悠々と存在するなかに、屋根がぽつりぽつりと見えるそれは、まるで童話の世界のようである。ドローイングに囲まれるように、フロア中央にはいくつもの模型が並んだ島が大きく3つあるのだが、色やテクスチャーのせいか、どの模型もメルヘンチックに映るのだ。こうした演出によって、来場者はおとぎの国を鳥瞰しているような気分になる。

展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]

展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]

本展は建築家ユニット、大西麻貴+百田有希 / o+h の世界観を存分に味わえる展覧会だった。タイトルの「A Living Whole」は、二人が影響を受けたという詩人、T.S.エリオットの言葉から取ったものだ。「生きた全体」というちょっとわかりづらい日本語訳が付いているので戸惑うが、原文の英語から推測すると、人が生きること、生活や暮らし、生物の生命や地球そのもののすべてといった意味を含んでいるのではないか。そう考えると、まるで世界を鳥瞰するような展示構成にも納得がいくのだった。

アンビルドではあるが、彼らのデビュー作である《千ヶ滝の別荘》は、独特の工法によるとんがり屋根で知られている。そのコンセプトは「森の中を歩いていると、いつの間にか屋根の下にいる」という、自然と一体化した家屋であった。本展でも彼らを象徴する作品として模型が展示され、ドローイングにも描かれていた。言うなれば、これこそが「A Living Whole」を最も表わした原初なのではないか。建築はそれひとつで成り立つものではなく、そこを利用する人々と、その地域や国、世界、地球とつながりながら存在する。彼らはデビュー当時からこうした考えの下、鳥瞰の視点を常に持ち続けながら建築と向き合ってきたに違いない。他の模型を観てみても、いろいろな角度や方法から「A Living Whole」に彼らがいかに挑んできたのかがよく伝わった。

展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]

鑑賞日:2024/09/06(金)