会期:2024/11/9~2024/12/15
会場:kanzan gallery[東京都]
公式サイト:http://www.kanzan-g.jp/exhibitions/sayaka-uehara-2024/

馬喰町にあるKanzan galleryで、上原沙也加の個展「緑の日々」が開催された。

この人の映り込みの写真が好きだ。ショーウィンドウなどのガラスにカメラを向けたとき、その透明の膜に映り込んだ対面の景色が重なって、二重の景色が現われる。シュールレアリスティックな多重露光の技法に近しいことが起こっているが、異なる要素を融合させて新しいイメージを生むという印象にはならない。二重の景色は、それが自然な状態として調和している。

上原沙也加の写真はどれもカメラを持ち上げたら、そこにその景色があったのだという見え方がする。「沖縄」や「台湾」といった「」つきの地名を、「」から解放していくような写真。そこに写った景色が特殊に見えるのであれば、それがそのまま土地の姿なのであって、写真家が自身の視点や作家性を盛り込んだからではない。だから一般的に過剰な印象になりがちな映り込みの写真が、気負いなく並んでいるように見えると、かえって変わった写真に感じられる。それは、先日開催されたT3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2024にあった彼女の沖縄の写真、レストランのライトが映り込んだガラス越しに撮ったフェンスのある景色を見ていても思ったことだった。

本展は台湾で撮影した新作のカラー写真19点で構成されている。モノクロームのシリーズ「緑の部屋」と対になる作品群だという。会場にある上原の文章を読むと、彼女が昨年から夏のあいだは台湾にいること、複数の時間の痕跡に関心を持っていることが綴られている。写真に写っている場所は「歴史に紐づいた場所」や、そうした場所を歩くという体験をする彼女自身の営みに関わるものなのだろう。

いずれの写真も、いろいろあってこの状態になった、というものが写っている。高層ビルと瓦屋根の家の境にコンクリートの塀がある様子は、そうした都市の区画となった経緯、戸建に選ばれている建材、住宅様式の由縁に思いがめぐる。それは極私的には、ビールの缶に白い花が挿してあるとか、ベッドのめくれた布団は誰かが眠ったあとだろうとか、日々の小さな行為においても、出来事や背景の想像を促す状態が捉えられている。長毛の猫が床に寝る脇には、その猫から抜けただろう毛がちらほらと散らかっている。

米田知子による戦禍のあった場所を撮影する「Scene」シリーズは、年月を経た場所の景色に過去の痕跡が少しも感じ取れないことを示すもので、写真が視覚外の情報を写さないこと、いつも雄弁に歴史を語るわけではないことを明かすが、上原はまだ過去が感じられる景色を選び、撮っている。上原の撮る「時」と現在はつながっていて、それと地続きに私たちの暮らしがあることを感じ取らせる。そうした印象もあいまって、やはり映り込みによる二重の景色は、過去の時間を伴うという彼女の写真の特徴を示し、空間が持つ異なる時間の存在を伝えるものに見える。

鑑賞日:2024/12/6(金)