会期:2024/11/30〜2025/02/02
会場:渋谷区立松濤美術館[東京都]
公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/206suda/

もう何年も前になるが、初めて須田悦弘の作品を見たときの驚きといったらなかった。まるで本物の植物と見紛えるというより、どこをどう見ても本物にしか見えなかったからだ。木彫作品でこんなにも精巧に表現できるのかと思わず舌を巻いた。しかも大きな展示空間の中で注視しなければ気づかない片隅にひっそりと展示されていることが多く、その控え目な様子も印象深かった覚えがある。

本展は東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘の個展とあり、私はいそいそと足を運んだ。やはり“ひっそり”な展示方法は同様である。まず館内に入る手前にも作品が展示されていたことを後から知るなど、うっかり見逃してしまった作品がある。地下1階と地上2階の展示室では、床や壁など至るところに、あの植物の木彫作品がニョキっと“生えていた”。特に「雑草」と題されたいくつかの作品は、本当にそこに自生しているかのような錯覚を起こさせる。周囲の鑑賞者がそこに意識を向けて一所懸命に観ていたから私も気づけたものの、ちょっとした宝探しのような展覧会だった。もしひとつ残らず作品を観たいという人は、館内マップを頼りに順番通りに観ていくことをおすすめしたい。

「須田悦弘」展示風景 渋谷区立松濤美術館

須田悦弘《バラ》(2024)作家蔵

須田悦弘《朝顔》(2024)作家蔵

本展はそんな植物の木彫作品以外にも、須田悦弘の別の一面を知れる作品がいくつかあった。なかでもコレクター夫妻に要望されて描いたというドローイング作品は、まるで牧野富太郎の植物図のような精緻さでこれまた驚いたのである。つまり彼は観察力に非常に長けたアーティストなのだろう。その力でもってユニークなインスタレーションに挑んでいるのだ。見方を変えれば、それは鑑賞者が試されているようでもある。普段、我々は道端に生えている雑草に目をくれることもなく通り過ぎていく。それと似たような状況を彼はインスタレーションとして再現し、いかに普段、我々が些細な存在と見做す雑草を見ていないのかということを突きつけてくる。一方で、その雑草を見つけ出したときの喜びも提示してくれているようだ。

鑑賞日:2024/11/29(金)