会期:2025/1/25~2025/2/23
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野[神奈川県]
公式サイト:https://artazamino.jp/event/photoannual2025-kawasaki

横浜市民ギャラリーあざみ野で川崎祐の個展「わたしの知らない場所の名前」が開催された。

大学で文学を専攻していた川崎は2017年から写真の発表を始め、『光景』(2019)、『未成の周辺』(2023)と2冊の写真集を出している。本展はその二つのシリーズに新作「他人の場所」が加わるかたちで三つのシリーズが時系列に沿うように展覧されていた。その順路における6ヶ所にハンドアウトが置いてあり、作家による語りとともに写真を鑑賞する構成になっている。

「光景」は滋賀県にある川崎の実家や家族を写したもので、タイトルの通り、光の印象が強い。置き去りになった時間を象徴するような古い漫画雑誌や煩雑な台所は、対象それ自体のイメージとは裏腹に鮮やかさが際立ち、光によってコーティングされているかのようだ。川崎による内省的な語り、風や光の印象は生々しいはずの被写体に拮抗している。

続く「未成の周辺」は、鈴木理策との出会いをきっかけに訪れた熊野を写したものだという。卒業論文で中上健二を扱った川崎は、鈴木や中上による熊野観に通じていただろうが、土地の部外者としてバスの車窓からカメラを構えることを選び、ブレた風景写真を撮っている。川崎はそうした写真を「ぐずぐずの風景」と呼んでいる。

最後に新作として「他人の場所」が並ぶ。本作は川崎が知人に思い入れのある風景を尋ね、その風景に関するテキストと、実地を撮影した場所の写真によって構成されている。インタビュイーとなっている人々の年齢や選んだ場所の偏りを見ると川崎の近親者のように思えるが、彼らは「他人」と名指されている。そして壁面においては「他人」と川崎による共同作品が並ぶなか、ハンドアウトにおいては「光景」に関わるテキストの時間軸が貫かれ、そこで川崎の母は「あなた」と呼ばれ、「故郷を失ったひと」と綴られている。川崎は三つのシリーズを通じて、徐々に作品から「私」が消えていくと話しているが、それによって人称が溶けたり、曖昧になったりはしない。「他人の場所」が終わる壁面は、出入口の空隙を挟んで「光景」へとつながっている。ハンドアウトを用いた展開とともに「他人の場所」を介して眺める「光景」は、それが家族という共同体を写したものではなく、家族もまた他者であること、川崎にとって私の場所と呼べるかわからない場所を写したものであることをさらに強く印象づける。

三つのシリーズからは、撮影者がカメラを介してファインダーの向こうにある対象、人や場所と向き合うとする対峙の力を感じる。それは会場において組み合わされる写真や言葉による編纂にもよるが、一つひとつの写真における、「撮ること」に対する「焼くこと」への比重の高さから成り立っているように見える。とりわけ「未成の周辺」は、素朴な、あるいは本人が「必然的な失敗」と呼ぶ不安定な風景が丁寧に定着されて並んでいるために、撮ったものをかたちにする工程への注力が感じられる。空間化された写真集の中にいるような、質量を感じる鑑賞体験だった。

鑑賞日:2025/2/18(火)

★──「川崎祐 Kawasaki Yu インタビュー[横浜市民ギャラリーあざみ野]」https://youtu.be/olNBDh6MoQQ