会期:2025/07/02~2025/11/09
会場:森美術館[東京都]
公式サイト:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/soufujimoto/

大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」で、建築業界以外からもひときわ注目を集めることになった建築家の藤本壮介。まさに“時の人”の初の大規模展覧会が開催されている。本展においても中ほどまで進むと、「開かれた円環」と題されたセクションで「大屋根リング」の5分の1部分模型を観ることができる。5分の1のサイズとはいえ、ホワイトキューブに収まるとそのボリュームは圧巻で、つい先日、大阪・関西万博を訪れたばかりの私はあの興奮をまた思い起こしてしまった。

インタビュー映像では、そもそも今世紀における万博のあり方についての思索が語られる。デジタル時代を迎え、パンデミックを経て、世界では人々の分断が進んでいるからこそ、世界各国がひとつの場所に一定期間集うことが重要な意義となっている。「大屋根リング」はそれを象徴する建造物であると。体験した人間からいうと、「大屋根リング」はシンボルとしてだけでなく、日陰や休憩場所、待ち合わせの目印をつくり、緑ある散歩道となり、空から会場を鳥瞰できるという機能性をも持ち合わせていた。

「開かれた円環」《2025年大阪・関西万博 大屋根リング 模型》展示風景 森美術館

建築家は常に未来を見据える職業だといえる。大規模なプロジェクトになると、数年から十年以上も先に竣工する建築を構想しなければならないからだ。さらに竣工後も社会に機能し、人々に利用される建物であり続けなければならない。本展が全体的に未来志向の内容となっていたのは、そうした観点があるためか。データサイエンティストの宮田裕章と共に考案したという、最後のセクション「未来の森 原初の森─共鳴都市2025」には特に度肝を抜かれた。歴史的につくり上げられてきた社会構造をいったん壊したうえで、絶対的な中心を持たず、人々が複層的につながるコミュニティとして、東京湾に浮かぶ無数の球体群を未来の都市像として発表していたからだ。それが地球環境へ配慮し、多様性を重んじながらも分断されることのない人間社会を実現するための、彼らが導き出した答えだというのだ。

「未来の森 原初の森─共鳴都市2025」展示風景 森美術館

本展のタイトルであり、通底にもある「森」とは、自らの原風景であり、その後の創造の源泉にもなったと語る、藤本が少年時代を過ごした北海道の森(雑木林)にちなんでいる。原初も未来も、森は普遍的な価値を持つ存在としてずっと変わることがない。そこに早くから気づき、建築のベースにしてきたからこそ、藤本がつくる建築は人々を魅了し続けるのかもしれない。

「思考の森」展示風景 森美術館

鑑賞日:2025/07/01(火)