
会期:2025/09/13~2025/11/04
会場:そごう美術館[神奈川県]
公式サイト:https://miffy70.exhibit.jp
予想どおり、会場は混雑していた。子どもから若い世代、私のような中年世代まで、今も昔も変わらぬ人気を誇る世界的キャラクターのひとつ、ミッフィーの展覧会なのだから当然である。今年、ミッフィーは誕生70周年を迎えた。会場入り口でその変遷が愛らしいミッフィーの像で紹介されていたのだが、1955年誕生当時のミッフィーの姿を見て驚いた。顔も身体も全体的にひしゃげており、今の完成された姿とはずいぶんかけ離れていたからだ。ロングセラーへの道は、洗練されてこそだと痛感する。そもそもミッフィー誕生のきっかけは、作者のディック・ブルーナが家族とともに海辺の町で休暇を過ごしていた際、まだ幼かった息子が野ウサギに出会って喜んだため、早速、子ウサギの物語を作って読み聞かせてあげたことだったという。ウサギをかわいいと思う気持ちは、大人も子どもも世界共通なのだ。
展示風景 そごう美術館[筆者撮影]
本展ではミッフィーシリーズの絵本全32作品の原画やスケッチを中心に展示しつつ、ブルーナの生い立ちや絵の制作方法、物語に込めた思いについても触れている。なかでも、興味深かったのは絵の制作方法である。ブルーナがグラフィックデザイナーだったことは知っていたが、ミッフィー絵本はまさにグラフィックデザイン的手法で制作されていたことを改めて知る機会となった。まず余白の白と輪郭の黒を除いて、使用カラーは6色のみ。それは赤、黄、緑、青、茶、灰で、しかも赤はオレンジ寄り、青は暗めというように、目に強すぎる色彩を避けたのかと思われる独特の色みに調整されていた。ブルーナカラーと呼ばれたそれら6色はオリジナルの色紙に仕立てられており、ブルーナは物語を作り上げ、絵を下書きすると、その色紙を切り貼りすることで、背景色をはじめ、登場人物の服装や持ち物などの配色を検討したのである。つまり絵筆ではなく、限定された数の色紙を巧みに用いることにより、ミッフィー絵本は洗練されたシンプルな作品に仕上がっていたのだ。また、現代であればDTP上で簡単に行なえるような作業を丁寧に、じっくりと、手で行なっていたことにも感心した。シンプルでありながらも暖かみがある理由は、こうした点にあったようだ。
左:『ちいさなうさこちゃん』(初版、1955) 中央:『うさこちゃんのゆめ』(印刷原稿、1979) 右:『うさこちゃんとたれみみくん』(印刷原稿、2006)
ミッフィー絵本は、小さな子どもが自分ごとのように共感できる身近な出来事を出発点としながらも、だんだんと肌の色の違いや身体的な違いのある友だち、また祖母の死といった重いテーマも扱うようになっていく。それらの絵本が発表されたときには、すでに私は大人になっていたので触れないままきてしまったが、もしも子どもの頃に出会っていたら、ミッフィー絵本への思い入れがまた違っていただろうなと想像する。
Illustrations Dick Bruna © copyright Mercis bv,1953-2025 www.miffy.com 写真の無断転載を禁じます
鑑賞日:2025/09/27(土)