会場:The White[東京都]
会期:2025/09/12~2025/09/28
公式サイト:https://www.the-white-jp.com/exhibition/2025/0828/
(前編から)
作家によると、作品のおおまかな制作工程は次のとおりである。まず過去に撮影した写真をプレビューせず選択し、いくつかのアプリケーションやp5.jsコードを使ってイメージが曖昧になるまでぼかし、次にプリンティングディレクターがプリンターの設定を調整のうえ出力する。写真をぼかす作業と印刷はトライ&エラーを繰り返しており、作品とならない場合がほとんどだという証言からは、宇呂の判断がかなり厳しいものであることがうかがえる。
かつてゲルハルト・リヒターは、自らの作品について「別の手段で写真をつくっているのです★」と答えた。宇呂は印刷である自作を〈擬態絵画〉と称しており、リヒターの発言を踏まえるならば、「別の手段で絵画をつくっている」と言えるだろう。作家が制作に使用するのは、スイスのメーカー・swissQprintが販売する大型UVプリンターである。これはノズルから顔料を吹き付け、媒体面に塗膜が形成される方式の機器だ。その被膜の抵抗感は、宇呂の作品を絵画的な奥行きとは一線を画すグラフィックとして定位させている。PCを絵筆とし、プリンターと対話を積み重ねるなかで定着された作品は、かつてマルティン・ハイデガーが「芸術」と「技術」の由来として「制作(ポイエーシス)」を位置づけていたことを思い起こさせるだろう。宇呂はプリンターという産業的な「技術」を用いて、絵画/写真双方にあるスペシフィックな知覚や価値を一種の遠心分離機にかけることによって、「芸術」を現前させるのである。

《image 1210 b mod》(プリントラボ風景、2025)[提供:宇呂映作]
このようにして宇呂は美学的な水準でジャンルとの距離を測りつつ、創作に取り組むのであるが、その戦略はアートワールドという制度に対しても同様のものを感じる。なぜならこの作家には、作品の置かれる位相を曖昧にしておきたいという欲望が見え隠れするからである。ホームページに掲載された今回の個展の告知写真は、作品を倉庫と思われる場所で、床置きの状態で撮影している。また、別の掲載写真では、作品を人が中空に持ち上げている状態の写真が掲載されている。
興味深いことに、今回の個展でも同じようなパフォーマンスが行なわれていた。会場には一点だけ、表面を伏せて壁に立てかけられたカンヴァスがあった。これがあることによって鑑賞空間は、倉庫のような作品の仮置き場へと漸近していく。このようにして、宇呂は鑑賞者が立つその場所すらも不確かにさせながら、妖しげな色彩とまどろむようなサイケデリアを放つイメージを、グラフィックとして提示するのだ。
「image 253, 449, 665, 1173 b mod」展会場風景[提供:The White]
★──ディートマー・エルガー「ゲルハルト・リヒター:画家にしてイメージメーカー ゲルハルト・リヒター財団の所蔵品」『ゲルハルト・リヒター』桝田倫広、鈴木俊晴監、清水穣訳、青幻舎、2022、7頁
参考資料
・秋富克哉『芸術と技術──ハイデッガーの問い』創文社、2005
鑑賞日:2025/09/19(金)