会期:2025/11/22~2025/11/30
会場:アクシスギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.taktproject.com/ja/news/lessons_in_relating/

靴を脱いで足を踏み入れると、床一面にさまざまな形態の木の枝100点が厳かに、等間隔に置かれたギャラリーへと導かれる。本来、ギャラリーにあるべきはずのいわゆる“作品”の姿はない。しかし一つひとつの木の枝をよく見てみると、何やら白い物質が枝に絡まるように、隙間を埋めるように、はたまた個性を主張するかのように存在している。これが展覧会「関係のレッスン」の真髄であるようだ。


展示風景 アクシスギャラリー[撮影:小川真輝]

本展はデザインスタジオのTAKT PROJECTと、デジタル技術を専門とするエンジニアリング企業のSOLIZE Holdingsが手を組み、主催・企画した習作展ともいえるものだった。彼らはいったい何を試みたのかといえば、木や森、自然との対話である。それは、今、世界中で課題となっているサステナブル社会への一歩になると確信してのこと。どのように対話したのかといえば、実際に森に行き、木々に触れ、気になった枝を採集し、手に取って眺めることをしたのだという。その後、それらを3Dスキャナーで読み取ってデジタル化し、画面上で別の視点から形態や重さ、力学的な偏りなどをじっくりと観察。さらに対話の結果として、ほんの少しの要素を3Dプリンターで具現化し、枝に付け加えたのである。

展示風景 アクシスギャラリー [撮影:小川真輝]

TAKT PROJECTの吉泉聡は、以前、21_21 DESIGN SIGHTで企画展「Material, or 」(2023/07/14-11/05)の展覧会ディレクターを務め、この世に存在するあらゆるものの「マテリアル」が、人の手によって意味が付与され「素材」となる境界について、来場者に問いかけたことがある。本展もその延長線上で企画されたかのように思えた。ギャラリーツアーでは、哲学者の國分功一郎による「中動態」という言葉を引用し、吉泉は素材との対話の重要性を説いた。つまり能動態の「する」と受動態の「される」という行為のあり方ではなく、中動態という姿勢で素材に向き合うと、人間本位ではない、素材のあるがままの姿を引き出すことができ、しいてはそれが自然環境に思いを馳せるきっかけになるのだと。


展示風景 アクシスギャラリー[撮影:小川真輝]

そうした姿勢は、近代化以前の日本にもあったはずである。自然を人間の思うがままに征服してきた西洋に対し、自然とうまく調和してきたのが日本である。それゆえ日本には八百万の神への信仰が根付き、また里山文化が暮らしを支えてきた。おそらく今でも工芸作家や職人らは、ものづくりに際し素材と対話することを是としているのではないか。本来、日本人が得意としてきた素材との向き合い方を改めて突き付けられる場となった。

鑑賞日:2025/11/30(日)

関連レビュー

Material, or|杉江あこ:artscapeレビュー(2023年08月01日号)