artscapeレビュー
Material, or
2023年08月01日号
会期:2023/07/14~2023/11/05
21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2[東京都]
わずか数百年の急激な人間活動によって地球環境が危機にさらされた現在、それでも我々人間は快適な人工環境を手放せず、なお人工的な方法で地球環境をどうにか救えないかと必死にあがいている。本展はそんな愚かさに示唆を与える内容に映った。そもそも人間は地球資源と対話を積み重ね、マテリアルから人工物としての何かをつくり出してきた。その対話そのものがデザインだったかもしれないと、本展でディレクターを務めたTAKT PROJECT代表・デザイナーの吉泉聡はメッセージで述べる。しかし産業革命により、人間はその対話をやめる選択をした。そして自分たちの都合だけで地球環境や資源を支配する一方で、多くの人々はマテリアルから遠ざかり、人工物に囲まれた生活を送るようになった。このように対話を失った不健全な関係が、地球環境問題を引き起こす要因になったのではないかと思えてくる。
本展では「マテリアル」と「素材」の二つがキーワードとなって登場する。マテリアルとは、この地球上に存在する特定の意味を持たないありとあらゆるもの。素材とは、人間や生物との関わりのなかで何らかの意味を持った創造のためのものとする。つまり前者は人工物の材料になる前の状態、後者は人工物の材料になった状態という使い分けだ。しかし素材を英語に訳せばマテリアルであり、両者はほぼ同義でもある。そこで気になって本展の英語解説を確認すると、マテリアルはraw material、素材はmediumと訳されていた。raw materialという表現であればしっくりくる。
会場自体もマテリアルへの回帰を意識して設計されたようで、什器ではなく、床に直接、設置する作品が多く目立った。例えば、日本各地の山や川から掘り上げた砂(珪砂)と、それらからつくった色鮮やかなガラス片を日本列島の形に沿って置いた、村山耕二+UNOU JUKU by AGC株式会社の「素材のテロワール」。またあるいは、地球上のありとあらゆるものが集まる場所として海に注目し、浜辺で採集した貝や流木、石などを波打ち際に見立てて並べた、三澤遥+三澤デザイン研究室の「ものうちぎわ」など。足元に作品があることで、地球上のマテリアルを眺めるようであり、鑑賞者に対話を促すようもであり、またそれらが素材になる過程を擬似体験するようでもあった。さらにユニークなのは、カラスやキツツキなど人間以外の生物による営巣まで作品の一部として取り上げられていたことだ。そう、マテリアルとの対話は人間だけの特権ではない。地球上の生物すべてが対話を行ないながら活動し、命をつないでいる。むしろ、いま、人間はその対話力を人間以外の生物から学び直さなければならないのかもしれない。
公式サイト:https://www.2121designsight.jp/program/material/
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