
会期:2025/07/05〜2025/11/16
会場:国立アイヌ民族博物館[北海道]
公式サイト:https://nam.go.jp/exhibition/floor2/special/vienna2025/
(前編より)
万博に向けた資料収集において、開拓使たちは樺太にまで足を伸ばしている。そこでは樺太アイヌの他にもニヴフなどさまざまな民族の資料を入手しており、当時の北方が文化的な類縁性を見せながらも、多くの民族が暮らしていたことが展示品からは伺え、そのバリエーションが興味深い。しかしそれと同時に、解説パネルやカタログには、そうした暮らしが「強制移住」というかたちで変容を余儀なくされたことが紹介されている。
1875年の樺太千島交換条約締結後、樺太アイヌは当時の政府によって強制的に宗谷に移住させられることになった。その他千島アイヌも強制移住を強いられている。教育による同化政策なども含め、日本政府はアイヌに対するこうした加害についていまだ謝罪を行なっていない。ゆえに国立施設での開催となったこのたびの展示も、強制移住という言葉は使いつつも、いくぶん表現が穏当になっていた。しかしこれら一連の侵害について、ある程度まとまったかたちで紹介されていたことは企画側の倫理的な態度を示していると言えるだろう。
ホミ・K・バーバも言うように「破壊と征服の植民地的暴力を知った過去の美術作品と、そして王宮からコレクターへと、邸宅から美術館へと移ることによって、より連続的で共感を得てきた類の古物となりおおせた作品との間の区別は──まさに、提示という慣習において──維持されなければならない」★。
同展で展示されていた資料は博物館の収蔵品であるが、そのような「暴力」の記憶と共に、「提示という慣習」によって、現代を生きる私たちの目の前に事物として存在している点では共通している。私はバーバにならって、かつての日本が思い描いていた「国家」の姿を、アイヌがかつて日常的に使っていた道具の数々に重ね合わせる。その裂け目から浮かび上がってくるのは、徹頭徹尾ポストコロニアルな状況に他ならない。
★──ホミ・K・バーバ「ポストモダニズム/ポスト・コロニアリズム」ロバート・S・ネルソン、リチャード・シフ『美術史を語る言葉──22の理論と実践』ブリュッケ、2002、560-561頁
参考資料
・国立アイヌ民族博物館編『ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション』中西出版、2025
鑑賞日:2025/08/24(日)