2025年12月8日に発生しました青森県東方沖を震源とする地震により被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。展示品への被害が報じられた八戸市美術館をはじめ、文化・芸術の現場にも影響が及んでおります。被災地の1日も早い復旧と、関係者の皆さまの安全とご無事をお祈りいたします。なお、近日公開を予定していました八戸市美術館学芸員・大澤苑美さんによる「それぞれのバックナンバー(30周年記念企画)」につきましても、現地の状況を鑑み、公開を延期することといたしました。ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。(artscape編集部)

《ハニヤスの家》[写真:Daiki Nakamori]

AATISMOの設計による鎌倉の住宅《ハニヤスの家》のオープンハウスにうかがいました。AATISMOは、海老塚啓太さん、中森大樹さん、桝永絵理子さんによる3人組。照明や家具、文具といったプロダクトや空間を手がけるデザインチームです。今回の《ハニヤスの家》は、夫婦でもある海老塚さんと桝永さんの自邸で、桝永さんのご両親と共に暮らす二世帯住宅であるとのこと。その構想は「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会 2023」で発表・評価されたもので、この度いよいよ実際の住宅として実現したものになります。

6日間のオープンハウスはいずれも盛況で、筆者がうかがった日も、建築やデザイン、アート、メディア関係者が多く参加し、賑わいを見せていました。連載「建築遊歩」を執筆いただいている五十嵐太郎さんにも、ばったり。

《ハニヤスの家》CGイメージ[画像:AATISMO]

木造の平家を改修するかたちで、母屋に連なるシンボリックな個室が四隅に増築された《ハニヤスの家》。「ハニヤス」とは土や陶芸の神の名で、生活と芸術、そしてこの土地や素材までもが渾然一体となった暮らしを目指した設計がなされています。増築部の造形には、鎌倉に多く見られるというやぐら群(横穴の洞窟)や、陶芸そのもののプロセスが参照され、その外壁の左官材は、敷地の土や素焼きの土を混ぜ合わせたもの。幾層にも重ねられた鉄や銅などの金属粉が、釉薬のような質感を表わしています。


《ハニヤスの家》増築部の外壁[写真:Daiki Nakamori

増築された4つの個室はそれぞれ、AATISMOのスタジオ、客間、陶芸家であるご両親のアトリエと居室に。ひとつの住宅でありながら、母屋を通り道に別々の家を行き来するかのような感覚の面白さを多くの参加者が口にしていました。

今回のオープンハウスが素晴らしいと思えたのは、この家での暮らしのありのままを感じられたことです。設計者のAATISMOのみならず、ご両親も自ら参加者たちと気さくに言葉を交わし、この土地での気づきや暮らしぶりを話してくださる。建築空間としての魅力のみならず、キッチンに並ぶ調理器具やシンクの使い心地、新たに取り入れる予定のソファでの過ごし方のイメージなどについて話をうかがうなかで、生活者としての建築家や陶芸家たちの姿が浮かび上がってきたのです。それは、竣工したばかりのまっさらな建築を見に行く内覧会とはまったく異なる体験で、オープンハウスとはこういうものだと、改めて思える時間となりました。写真にはありませんが、参加者たちとの交流の合間に、庭に立つ桝永さんのお父様が鎌倉の景色を望みながら煙草をふかす姿も印象的。その土地での暮らしと、文字通り“地続き”にある創作のかたちに思いを馳せる時間となりました。




《ハニヤスの家》[写真:Daiki Nakamori

六本木・21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「デザインの先生」展の一角に、長崎・雲仙を拠点に活躍したデザイナー城谷耕生さんを紹介するパネルがあります。モダンデザインの巨匠から受けた薫陶、プロジェッタツィオーネ(Progettazione)を実践するべく、自らの身体や地元・雲仙での暮らしに目を向けた生活者像とデザイナー像の両立を目指した“プロジェッティスタ”の姿。それもまた、現代に必要な、地続きな創作を感じさせるものです。

《ハニヤスの家》にうかがった後には、「もつれのパターン / Patterns of Entanglement」展(馬喰町・NEORT++)と「Dentsu Lab Tokyo OPEN LAB 2025」(汐留・電通ホール)をはしご。建築からメディアアートまで、“遊歩”する1日を過ごしました。(h)