会期:2025/12/17〜2026/02/07
※Aokidのワークショップ「何か作りたかった、なりたかった私、が、東京を作ってきたんだった。」は2026年1月23日、25日、31日に実施予定。
会場:BUG[東京都]
参加アーティスト:Aokid、芦川瑞季、KANOKO TAKAYA、坂本森海、タツルハタヤマ、八木恵梨、𠮷田勝信
キュレーター:池田佳穂
公式サイト:https://bug.art/exhibition/bugschool-2025/

前編より)


会場の様子。白い壁面全体を使って描かれた表題作品の上に複数の作品が展示されている[撮影:山本康平]

千切れて浮かんだものたちを思い出す。アンビルト★5のドローイングから《ベルリン・ユダヤ博物館》(2001)のような実在の建築物まで、メディウムを問わない実践で知られる建築家ダニエル・リベスキンド(1946-)は、《マイクロメガス》(1979)で、10のドローイングを発表した。破砕の後の粒子のように建築物の断片のようなものが紙面いっぱいに広がる。建築物の断片のようなもの、と書いたのは、それらが制御された直線や曲線で描かれ、アイソノメトリック図のように読み取れる角度を有しているからだ。一方、角度や奥行きを思わせるさまざまな傾斜が混合しているために、「それらは軸測図法に則って三次元的な表象を形作るように見せながら、実際にはその表象を破綻させてしまうのである。例えばある面の輪郭を追っていくと、本来閉じるべきその輪郭線が解放されたままに終ってしまっており、それまで図として表象されていた面が一転、地へと窪んでしまう」★6。紙面には限りがあるが、描かれるものはどこまでも続き、閉じられていない。(描く順序としてあったはずの)始まりと終わりはなく、浮かぶものはどの時点にも固定されていない。鑑賞者の視線はそれらの間を飛び回るが、この紙面/空間にいられないということだけがわかっていく。

また、建築家レベウス・ウッズ(1940-2012)は、色鉛筆で精緻に異形の都市風景を描いてきた。ウッズのドローイングはリベスキンドとは対照的に、遠近法を伴い、実在の風景をを思わせる描写が多い。ただ、《エアリアル・パリ》(1989)では、重力から逃れた建築物と宇宙船の間のような何かが大きな帆で空に浮かび、エッフェル塔とそれらの間を空中サーカスのパフォーマーが飛び回る。あるいは、《アンダーグラウンド・ベルリン》(1988)ではベルリンの地下空間に、地上とは異なる連続空間が描かれる。《ベルリン・フリー・ゾーン》(1990)では、宙を舞うオブジェクトのいくつかは古くからある建物へ貫入している。それらが一体どのように貫入したのか、登場したのか、その経緯は記されていない。どのドローイングも、経緯を持たず、その実現への道筋を含まない。一見、リベスキンドのドローイングの方が建築や都市を解体しているように思えるが、ウッズのリアリスティックな画風は、むしろ出来事の前後関係が喪失しているという点で、現実を思わせながらもつながりえないという点でより破壊的かもしれない★7

ウッズは先述した一連の作品を「テラ・ノヴァ」プロジェクトと呼び、新たな地球の想像/創造を行なっているのだという。「建築:行動を通して得られる知識を発明するための道具。発明の発明」「建設:リアリティの創作」★8と述べるように、ウッズにとって建築の実践とは、作ること、描くことその行為じたいに賭けられているように思う。だが、考え、描く作業においてはウッズのなかに時間の推移はあるものの、描かれたものから時間は抜き取られ、すでにそうなっている都市風景だけが描かれる。リベスキンドの紙面/空間もまた、時空間の前後左右がない。

Aokidのドローイングもまた、砕かれた世界は、線幅を違わせ、遠近を狂わせる。鑑賞者を惑わせる紙面の様は、アンビルトの建築と近しいかもしれない。だが、Aokidが地球を想像し、描くとき、そこにはその動きを追いかけてくる人──鑑賞者としてまず現われる他者──の存在がつねに想像されている。あるいは、そうした人が異なる動きで通り抜けていくことも、無関係に窓の向こうを歩き去っていくことも。

左から順に《江の島とAokid2025》《BUG(東京駅近郊)とAokid》《富士山とAokid2025》。それぞれ、対象となる風景と踊る映像作品。広がる世界を指差し、砕き、結んでいく[筆者撮影]

数年前とドローイングの質が変わってきたとAokidは会場で呟いていた。以前は光や風、音、なにかの煌めきたちが人や物の間を埋めるようだった★9。私たちはAokidの踊りを追うばかりだったのかもしれない。だが、紙面の余白は確実に増えている。私たちの目線は紙面をすべり、指差すように一つひとつをつないでいる。

建築家たちが描けなかった経緯や推移をつないでいくのは、Aokidと、Aokidから指差された無数の私たちだろうか。

「何か作りたかった、なりたかった私、が、東京を作ってきたんだった。」

そうか、そうだ、すでに私たちはやり始めていたんだった。


カフェのキッチンスペースの上に置かれていて直接見ることのできないAokidの地球。ギャラリー天井のミラー越しに見ることができる[撮影:山本康平]


★5──unbuilt、すなわち建たない建築物を指す。実在しない建築物を総称してアンビルトと呼んでいるが、建築アカデミアにおいては、建てることを前提としないプロジェクトや作品を指すことが多い。それらは社会批評や思考実験の意味合いが強く、なんらかの理由で実現しなかったプロジェクトとは区別される。
https://artscape.jp/artword/5545/
★6──若宮和男「『建築家のドローイングにみる〈建築〉の変容──ドローイングの古典、近代、ポストモダン』17」(note、2018年9月9日公開)より。
★7──ウッズの作品には《Terrain, project》(1999)のように、紙面/空間をオブジェクトで埋め尽くすドローイングからの構想もあり、これらは1990年代初頭のドローイングと様子が異なる。
★8──『レベウス・ウッズ: テラ・ノヴァ 1988-1991(a+u 1991年8月臨時増刊)』(エー・アンド・ユー、1991)ページ下部の用語解説(p.26[建築]、p.36[建設])より。
★9──ラーニングスペースに展示されている《キャンペーン》(2021)と新作を見比べてほしい。


鑑賞・ワークショップ参加日:2025/12/27(土)