会期:2025/12/24~2025/12/28
会場:Jingu 339[愛知県]
公式サイト:https://japaneseartsoundarchive.com/jp/news/
名古屋・Jingu 339で「日本美術サウンドアーカイヴ──堀浩哉《調書 Vol.2》1973年」が開催された。本展は1973年の夏に田村画廊で開かれた「『調書』VOL・2──街の記憶」(以下、《調書 Vol.2》)の再展示にあたる。
現在は画家として活動する堀だが、1970年代にはパフォーマンスと呼べるシリーズ作品を複数手がけている。そのうちのひとつである《調書 Vol.1》は1973年5月7日から19日までの13日間、毎日会場へ任意の本を持参し、朗読した内容を録音する。堀が立ち去ったあとはその音声が室内に流れ続けるというものだった。堀はのちに本作について、作者がその場にいた痕跡を作品化したものと語っている★1。
その第二弾にあたる《調書 Vol.2》は1973年7月9日から14日までの6日間において、堀を含む6名の作家が1日につき1名、家から会場へ向かう道中で目にした文字を発声して録音。会場の地図に自らが辿ったルートを赤線で引いたのちに、音声を再生する。その後、8月12日に堀のみが会場へ行き、6名の音声から聞き取った言葉をひとつずつ一枚のカードへ記すという工程を取った★2。2025年における本展はそれらの一連の行為をさらに「調書」として記録するように、4名分の地図と音声を再生し、文字が記されたカード162点をカラーチャートとともに撮影した写真を展覧していた。
「日本美術サウンドアーカイヴ──堀浩哉《調書 Vol.2》1973年」展にて[筆者撮影]
会場で流れていた音声の一部は、現在ウェブでも聞くことができる★3。わずかな試聴でも本作がいかに傑出しているか、すぐに感得できるだろう。街中に乱立する看板や標識を手がかりに、半ば無秩序に出来あがった都市の様相と、読む側の見落としや移動状況の影響を受けたランダムさとが混じり合い、他律と自律が調和した街の記録表現となっている。
つづく《調書 Vol.3》は1973年10月14日、堀自身がオートバイで1500kmを走行して録ってきた環境音を、会場に設置したバイクとそれにまたがる白塗りの役者がいる空間に流すというもので、本作も音の再生時に堀が会場にいないことで、痕跡という主題の強調が試みられた。これら三つの「調書」は作品を物質に既定せずに、気配や痕跡といった非具象的な要素として追求する共通性があるが、とりわけ《調書 Vol.2》の精錬の度合いは魅力である。Vol.1は任意とはいえ堀の私物から図書が選ばれており、Vol.3では非日常的な演者が配されたことによる私性や作為性が漂うが、Vol.2は純化された方法論によって、記録装置としての人のありようを伝えるものとなっている。そしてそれゆえに他者や街といった外部に開かれながら、声の抑揚や韻律という作為から離れた私性を抽出することに成功している。
役者の起用をふまえると、堀が作為の排斥をねらっていないことがわかるが、彼は70年代における機械装置を用いた自作について、メディアを用いて作品を作るのではなく、自らがメディアという媒体になることを目論んだと語っている★4。《調書 Vol.2》における試みは、発話者が人間的な記録装置としてのメディアになるという実践が果たされたものだといえるだろう。
「日本美術サウンドアーカイヴ──堀浩哉《調書 Vol.2》1973年」展にて[筆者撮影]
ところで、この私なるものに対する距離感は、1970年代における同時代的な感覚、あるいはグループ〈位〉が60年代から行なっていた「非人称」的な態度が普遍性を帯びてきた状態と言えないだろうか。中平卓馬が写真から「私」的な詩性を排除することへの欲求を述べた論考「なぜ、植物図鑑か」の初出は1973年2月にあたる★5。堀と同時期に多摩美に在籍した和田守弘らによる「鈴木清」──メンバーを明かさない複数人からなるグループで、当時最も多かった姓名が活動名として電話帳から選ばれた──も1973年に「共同主観的存在構造」展を開催している。
彼らの作品に見られる近代的な自我の顕示と距離を置く姿勢は現代においては美学として結実し、とくに写真や映像の領域で内的な引き継ぎがあるように見える。その一方で《調書 Vol.2》のような先達の営みは見つけがたい鉱石のように美術史に散らばっている。日本美術サウンドアーカイヴは、そうした現在なお有効な作品や展覧会を音という観点から再考し、捉え直す試みを続けている。文字資料や映像ではなく音に注目することで、時代を超えた志向や感性のつながりが新たに発見され、個々の作品の重要性を浮かび上がらせる機会を与えてくれている。
★1──「そして、タイプライターがあって、そこで作者が、ここに来たという痕跡、本を読んだという痕跡、それだけが残っているという作品」。参照=「ロングインタビュー 堀浩哉」『堀浩哉展──起源』(堀浩哉退職記念展実行委員会編集、2014、75頁)
★2──2014年時のインタビューでは、第一部に参加した作家がその日のうちにカードへの書き込みを行なったと堀が語っている。参照=前掲書、76頁
★3──「Kosai Hori “REPORT Vol.2” samples 01/16」(https://soundcloud.com/japaneseartsoundarchive/report2-01)
★4──「ヴィデオというのは、僕自身がメディウムであり、僕と一体化したヴィデオシステムがメディウムとして繋いでいくというか、そういうものとして使ってた」参照=堀浩哉退職記念展実行委員会編集前掲書、74頁
★5──本論考は同名の書籍のために書き下ろされたため、書籍の発売日が初出となる。
鑑賞日:2025/12/25(木)