会期:2026/02/08、11、17
会場:東京都写真美術館[東京都]
公式サイト:https://www.yebizo.com/jp/program/2213

恵比寿映像祭2026のプログラムとして、東京都写真美術館で上映された「モーガン・クウェインタンス特集:発話行為&イメージの合唱」。ロンドンを拠点に活動するクウェインタンスは、カルト的な周縁文化や都市環境、そしてディアスポラの歴史に対する多岐にわたる考察を社会的な文脈から紐解くアーティスト、批評家である。6本の過去作で構成された本上映は、詩的なモンタージュと16ミリフィルムによる描写といった実験映画の形式を駆使し、歴史記述の周縁に置かれた声を映像のなかに立ち上げる試みである。

なかでも中核をなす《Available Light》(2024)は、居住空間としての家の根源的な不安定さと、都市における階級的な断絶を散文的な映像言語によって描き出している。本作は、クウェインタンスの日本滞在時の経験と、江戸東京たてもの園で撮影されたフッテージを基に構成されている。街中の風景やテレビ画面、歴史的建築物が並ぶ博物館の光景といった断片的なイメージが詩的な言語とともにモンタージュされる。これらは決して単一の物語に収斂することなく、直線的な時間軸を解体し、ポリフォニックな映像空間を構築しているのである。

特筆すべきは、野外博物館として特権化された理想の家屋と、東京やロンドンなどの都市部で働く人々が直面する居住空間の不安定性という二つの様態が、弁証法的に対比されている点にある。

江戸東京たてもの園に並ぶのは、本来の土地や生活の文脈から切り離され、文化遺産として特権的に移築・保存された建築物群である。作家は、博物的資料として安全にアーカイブされた静謐な家屋の光景に対し、労働者や賃借人たちの断片的な発話と移住民である作家自身の視点を、あえて同期させることなく重層的に交錯させる。この夢幻的に浮遊するような映像から露呈するのは、建築遺産を特権化して保護する制度と、現在進行形で生活圏を奪われ続ける都市の周縁者たちとの間に横たわる非対称な現実である。

映像に通底しているのは、グローバル資本主義下における家という物理的かつ心理的な安全神話の解体である。作家自身がイギリス帰国後に理不尽な家賃高騰の通知を受けた経験を語るように、所有権を持たない賃借人の生活圏とは、つねに資本主義的な搾取の脅威に晒された状態にほかならない。クウェインタンスは劇作家ハロルド・ピンターの作品に見られる「住居侵入」の概念を参照し、この日常的な脅威を可視化する。

ここで興味深いのは、直線的なドキュメンタリーを拒絶する詩的なフッテージとともに、作家自身の日常的な経験がノイズのように混入している点にある。深夜にゴミ袋に荷物を詰めて立ち退く隣人の姿や、何気ない室内の窓辺といった近接的な生の描写。特権的に保護された家のノスタルジーの傍らで、我々自身がつねに社会構造から追放されるかもしれないリスクを抱える二重のディスプレイスメント(居場所のなさ)の恐怖が、映像の端々に生々しく立ち現われるのである。

また、本作は単一の映像作品という枠組みを逸脱し、ロンドンのChelsea Spaceでのインスタレーション展示(2025)や出版物へと展開するパラレルな空間的実践を伴っている。各メディアが従属的に補完し合うのではなく、独立した要素を並置して作品の総体を押し広げることで自由連想的な作品ロジックが再配置される。こうしたクウェインタンスなりの「住居侵入」的なアプローチは、家と帰属意識の関係性を解きほぐしながら、マジョリティの歴史記述に介入する実践的な形態として制度の捉え直しを図っている。

★──2026年2月8日の上映トークでの発言より抜粋。


鑑賞日:2026/02/08(日)