
会期:
2026/02/27〜2026/03/15[アデレード・フェスティバル]
2026/02/20〜2026/03/22[アデレード・フリンジ]
会場:アデレード近郊[オーストリア]
公式サイト:
https://www.adelaidefestival.com.au/[アデレード・フェスティバル]
https://adelaidefringe.com.au/[アデレード・フリンジ]
2026年2月28日から3月6日にかけて、アデレード・フェスティバル(Adelaide Festival)とアデレード・フリンジ(Adelaide Fringe)という2つの舞台芸術祭の視察でオーストラリア・アデレードに滞在した。

アデレード空港にて[筆者撮影]
アデレード・フェスティバルは1960年から開催され「オーストラリアでもっとも優れた芸術祭として国際的に認知されている」★1国際芸術祭。幅広いジャンルのプログラムが並び、2026年は2月27日から3月15日の会期中に音楽19プログラム、演劇9プログラム、ダンス4プログラム、ビジュアル・アーツ3プログラム、トーク8プログラムの合計45プログラムが実施された。音楽プログラムとしてラインナップされているなかにはWOMADelaide(ワールド・オブ・ミュージック・アーツ&ダンス)という音楽フェスティバルも含まれており、実質的なプログラム数はさらに多い。さらに例年はアデレード・ライターズ・ウィークという文学フェスティバルもアデレード・フェスティバルの一部として同時開催されているのだが、今年はパレスチナ系オーストラリア人作家の招待取消をめぐり多くの作家やスポンサーがボイコットを表明したことで★2開催中止となった。
一方のアデレード・フリンジはエディンバラ・フリンジに次ぐ世界有数の規模を誇る芸術祭である。1960年、最初のアデレード・フェスティバルの開催時に地元アーティストらが独自に開催したイベントに端を発し、公募型の芸術祭として発展してきた。2026年は2月20日から3月22日の会期中に1600弱のプログラムを実施。ジャンルも多様で、演劇やダンス、美術はもちろん、サーカスやキャバレー、コメディ、手品、あるいはキッズ&ファミリーやコミュニティイベント、フードイベントなど、全部で15のカテゴリーが用意されている。内容面に目を向けて見れば、アデレード・フリンジは世界でも屈指のクィア濃度を誇るフェスティバルということで、公式サイトでLGBTQIA+ Themesとまとめられているものだけでも51ものプログラムが並ぶ。ここに含まれていないものにもLGBTQに関わるプログラムは多数あり、私の1週間の滞在期間中に上演されているものに限ってもすべてを観るのはとても不可能なほどだった。実は今回アデレードの視察を決めたのもそれが理由である。
ありがたいことに2024年からたびたび海外視察の機会に恵まれ、これまでにシンガポール・台湾・メルボルン・アムステルダム・ソウルに滞在してきた。視察にあたっては「まだ見ぬアーティストや作品、日本とは異なるコンテクストに触れ、新たな知見を獲得すること」と「それらの紹介を通じて日本の舞台芸術を相対化し、あるいはいまあるそれらとはまた別の可能性を示すこと」を目標とし、特に関心を寄せるLGBTQに関連するものを優先してリサーチを行なっている。とはいえ1週間程度の滞在では、LGBTQ関連のプログラムやアーティストに触れられる機会は限られていることが多い。その意味で、今回のアデレード滞在は、多くのLGBTQ関連のプログラムをまとめて観ることができる例外的な機会だったと言える。
アデレード・フェスティバルのラインナップには、例えば「秋の隕石2025東京」でも上演されたロバート・ウィルソン演出によるイザベル・ユペールの一人芝居『Mary Said What She Said』や、東京芸術祭2019で上演されたドイツの巨匠トーマス・オスターマイアー演出による『暴力の歴史』など、いかにも「国際舞台芸術祭」なプログラムが並ぶ。
一方のアデレード・フリンジにも、世界規模のツアーをしているようなカンパニーはもちろん参加しているのだが、公募型ということもあって作品のクオリティにはそれなりにバラつきがある。だが、フェスティバルとフリンジの本質的な違いは、クオリティとは別の部分にあるように感じられたのだった。例えば日本でもYPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)やKYOTO EXPERIMENTではフリンジが開催されているが、そこで上演される作品の多くにはメインプログラムとの間に一定の質的連続性を見出すことができるだろう。いずれも先鋭的・実験的な作品が中心を占めるという点では変わりはない。メインプログラムのアーティストとフリンジのアーティストはある意味では入れ替え可能なのだ。しかし、アデレードはそうではない。
そもそもカテゴリーにサーカスやキャバレー、コメディ、手品などが含まれていることからもわかるように、フリンジは実のところエンタメ的・商業的な側面が強い。例えば2026年は、日本からお笑い芸人のNON STYLE・石田明らによるノンバーバルコメディ『CHALLENGE』やTONYこととにかく明るい安村らによる『THE TOKYO IDIOTS presents The Ultimate Japanese Comedy Show』も参加していた。
形式面に目を向けて見れば、フェスティバルのプログラムの多くがいわゆる劇場で上演されるのに対し、フリンジのメイン会場となるのは、市内の公園に設営される大規模な仮設会場である。複数のテント型劇場やバー、フードスタンド、あるいは移動遊園地が設営される会場もあり、夜になると多くの観客で賑わう空間となる。
[筆者撮影]
さらに、同じ会場で1日に複数の演目が上演されることが多く、そのため転換を素早く行なえるよう、簡素な舞台美術を用い(あるいはほとんど舞台美術なしで)、パフォーマーの身体を中心に置いたプロダクションが多い。スタンドアップコメディや一人芝居も多く、それらはしばしばパフォーマーのアイデンティティと結びついた作品として上演される。それゆえ、フリンジの上演に立ち会って強く感じたのは、エンタメ的・商業的な側面の一方で、そこが舞台上の生身の人間を観る場所なのだという、ごく当たり前の事実だった。そのような視点から見直してみれば、雑多に思えたカテゴリーにも共通するものが見えてくる。もちろんこれは、LGBTQ関連のプログラムの多さや、そのあり方にも関わってくるところだろう。

フェスティバルの会場のひとつ、The Octagonのタイムテーブル[筆者撮影]
★1──公式サイト内「About The Festival」より。
★2──「Almost 50 writers boycott Adelaide festival after it dumps Palestinian academic Randa Abdel-Fattah」(『The Guardian』、2026.1.9公開)
(「視察レポート②:観劇プログラムを概観する」へ)※2026年3月27日公開予定
滞在期間:2026/02/28(土)〜03/06(金)