派遣期間:2024/10/02〜2024/10/07
公式サイト:https://www.jpf.go.jp/j/project/culture/perform/exchange_perform/2024/10-01.html
2024年10月2日から7日にかけて、国際交流基金/YPAM共催 2024年度舞台芸術専門家派遣事業の派遣アーティストとしてシンガポールを訪れた。
この事業は「日本を活動のベースとする若手の舞台芸術専門家を、ASEAN諸国で開催される舞台芸術フェスティバルなどへ人的ネットワーク構築を目的として派遣」し「現地の専門家らとの意見交換、作品制作現場や公演視察などの機会を提供」するもので、今後も継続的な展開が予定されているのだという。今年度の事業では公募で選出された髙山玲子(アーティスト/俳優/体メンテナンス体操講師)、益田さち(ダンサー)、宮悠介(身体表現者/舞台作家/湘北短期大学非常勤講師)、山田カイル(劇作家/演出家/ドラマトゥルク/抗原劇場代表)、そして批評家/舞台作家として活動する私の5名がシンガポールに派遣された。12月にはYPAMエクスチェンジの一環として参加アーティスト5名による報告会も予定されているのだが、ここにプログラムの概要と現時点での雑感を記しておきたい。
現地にて、日本からの派遣アーティストたちでの一枚
私たちが今回参加したプログラムはいくつかのカテゴリーに分けることができる。ひとつ目はシンガポールの国立舞台芸術センターEsplanade – Theatres on the BayによるInternational Presenters Visit Programme(IPVP)に含まれているもの。これはその名前の通り、海外からプレゼンター(フェスティバルや劇場のディレクターなど)を招聘し、シンガポールにおける舞台芸術の取り組みを紹介するとともに関係者の交流を図るための、(一部の公開プログラムを除き)基本的にはコアな舞台芸術関係者向けのプログラムである。
私たちが参加したIPVPのプログラムは以下の通り。Esplanadeの活動の紹介と劇場ツアー、シンガポールのダンスカンパニー/アーティストによるプレゼン(CHOWK Productions、T.H.E Dance Company、Hasyimah Harith、Daniel Kok Diskodanny)、海外プレゼンター9名によるそれぞれのフェスティバルや劇場の紹介(Asia TOPA[オーストラリア]、Festival TransAmériques[カナダ]、東京芸術祭[日本]、Dansehallerne[デンマーク]、London International Festival of Theatre[イギリス]、SPRING Performing Arts Festival[オランダ]、Brooklyn Academy of Music[アメリカ]、ACT Shanghai Contemporary Theatre Festival[中国]、Maison de la danse & Biennale de la danse[フランス])、山海塾メンバーによるトーク(後述するがこれはEsplanadeで山海塾の公演があったためそれに合わせて実施されたもの)、シンガポールの演劇支援センターと演劇カンパニー5組によるプレゼン(Centre 42、Teater Ekamatra、The Finger Players、Singapore Repertory Theatre、Nine Years Theatre)、ドラマツルギーに関するトークセッション(Corrie Tan[Asian Dramaturgs’ Network]、Sindhura Kalidas[演劇・児童青少年演劇]、 Shanthini Manokara[ダンス]、Joel Tan[テキスト・戯曲]、Ang Xiao Ting[気候ドラマツルギー])、そしてシンガポールのインディペンデント・アーティスト8組によるプレゼン(Amin Alifin、Bertram Wee、Chong Tze Chien、Dapheny Chen、Neil Chua、Pat Toh、Shahrin Johry、Sushma Somasekharan)である(ちなみにインディペンデント・アーティストのプレゼンのなかでは、フェミニズムをベースとしつつ、ボクシングや呼吸などに焦点をあててパフォーマンスをつくっているというPat Tohのプロジェクトが圧倒的に興味深かった。ぜひとも日本に招聘してほしいアーティストである。Pat Tohは後述するVECTOR#5にも参加していた)。
これらのプログラムは基本的にはシンガポールの舞台芸術を海外のプレゼンターにアピールするために用意されたものであり、それゆえ日本から派遣されたアーティストとしてはどうしてもそこに混ぜてもらっている、居場所がないという印象も拭えなかったのだが、それでも、あるひとつの国の舞台芸術とその背景にあるものについての情報をこれだけまとめて知る機会はなかなかあるものではない。文化政策、劇場の取り組み、国から助成金をもらっている大規模なカンパニーの実践、インディペンデントなアーティストたち、そしてこのプレゼンの場には現われないもの。シンガポールの舞台芸術の見取り図は(それが国立の舞台芸術センターが提示する「オフィシャルな」ものであるということは考慮に入れる必要があるものの)、日本の舞台芸術のそれを別の角度から眺め、いまとは別の可能性や異なる方法を見出すための思考の糧となるものと言える。
(「レポート②:CAN/da:ns LAB 2024/スロー・デイティング」へ続く)
執筆日:2024/10/23(水)