会期:2026/01/17~2026/02/01
会場:東葛西1-11-6 A倉庫[東京都]
公式サイト:https://www.instagram.com/p/DTIchxzifiZ/
「Tiger Question」展示風景[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]
絵の神話に寝返り打って、ききわけのない絵画のルールを把握しながら、ペインティングへと加速します。
(石井佑果、大﨑土夢「Tiger Question」ステートメント★1より)
石井佑果と大﨑土夢の二人は、ともに絵画の構造的な操作に意識的な作家である。ゆえに冒頭に引用した展覧会ステートメントにおいて、絵、絵画、ペインティングという類義語を繰り返すことで生まれる用語の混乱は意図的なものであり、むしろ二人の絵画にある自己言及的性格を反映したものとして理解できるだろう。
このように同展は絵画を主要なテーマとしているが、その試みは両者において、絵の具や筆触といった物質的なアプローチではなく、基本的には図像の組み合わせによる秩序の構築/脱構築によってなされている。例えば石井の《untitled》(2025)[図1]は真俯瞰から描くことによってパースが排除され、テーブルクロスの折り目がグリッドを形成することで、具象画にもかかわらず抽象的な様相を呈している。木の直方体に載るエスプレッソカップもその非現実性を強調するだろう。しかしその一方で、蛇を連想させる緑色の細長い形象は3次元的に描かれる。ほかにもいくつかの要素が組み合わされることで、同作は現実と虚構をないまぜにする。その逡巡の末たどり着くのが、おそらくは石井(と大﨑)の名指すところの絵画なのだろう。
図1 石井佑果《untitled》(2025)[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]
こうした詐術を画面の半分以上がカーテンに覆われ、そこにカリグラフィー的な文字が描かれる石井の《untitled》(2025)[図2]は明快に示している。同作の文字はよく見るとカーテンの皺に沿って描かれているものと、カーテンとは関係なく最前面のレイヤーに描かれているものが混在している。一見同じ記号が異なる位相に存在していることに気づいた瞬間、両者の間で空間は震えだすのだ★2。
図2 石井佑果《untitled》(2025)[写真提供:石井佑果]
このようなレイヤーの操作はもちろん大﨑の作品にも見出せる。《イメージの旅#9 本制作 僕と私のエチュード》(2025)では、不定形な白い線の軌跡が画面全体に施されている。これによって下層に描かれた事象の断片は、縫い合わされるかのように共存する。だが大﨑はそうした図像のモンタージュを遊戯的に扱っているばかりではない。《絵のみに非ず(studio)》(2026)[図3]では、タイトルでも示唆されているように、壁面のイメージはテープやピンで留められた物ばかりではなく、プロジェクターなどの機器による投影であることが、画面中央を横切るアプリケーションのアイコンと壁面の影によってわかるだろう。このような現実的な設定で画中画を描くことによって、大﨑はディエゴ・ベラスケス《ラス・メニーナス》(1656)よろしく、モンタージュ的な手法では言及しきれない鑑賞者の存在を浮き彫りにするのだ。
図3 大﨑土夢《絵のみに非ず(studio)》(2026)[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]
しかし「共通点は絵画への不安」★3と両者が述べている通り、石井と大﨑の実践はイメージの根本的な虚構性を前提としているため、その態度が両義的であることは急いで付け加えなければならないだろう。
そのアイロニカルな身振りについて、大﨑の《8の儀式(hi-lite)》(2025)[図4]と《8の儀式 (SIEP)》(2025)から読み解いてみよう。これらの作品の中央部分には、絵の具が使い込んだパレットのように無作為に塗りたくられている。しかし、ここで重要なのはその周辺部である。これらは画面の四隅にまるで額縁のように配置されることで、それだけでは具体的な意味をなさない絵の具の塊を、あたかも絵画のように振る舞わせている。「8の儀式」とは絵画における額縁というコンヴェンション(慣習、因習)を逆手に取ることで、どんなものでも絵画になってしまう状況を図解するのである。
図4 大﨑土夢《8の儀式(hi-lite)》(2025)[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]
また、その「儀式」にタバコや錠剤という日常的なモチーフが使用されいることは、ジャクソン・ポロック《五尋の底に(Full Fathom Five)》(1947)も連想させるだろう。同作はポロックのいわゆるポーリングによって制作された絵画であるが、その表面にはタバコの吸い殻やボタンといった日常的な小物がそのまま貼りついている。ロザリンド・E・クラウスはこうしたポロックの仕事について、観者に床面を意識させることによって、カンヴァスに対する新しい関係を示し、絵画という垂直に掛けられるものへの抵抗を読み取っている★4。このことを踏まえると、《8の儀式(hi-lite)》と《8の儀式(SIEP)》が「儀式」と名づけられていることは、ポロックのこうした方法論が芸術として正統性を得たことを風刺しているようですらあるだろう。
(後編へ)
★1──https://www.instagram.com/p/DTIchxzifiZ/
★2──その振動は3次元空間にも滲み出し、今回石井はその絵画的要件をインスタレーション作品としても提示している。
★3──前掲★1参照。
★4──イヴ=アラン・ボワ+ロザリンド・E・クラウス『アランアンフォルム 無形なものの辞典』(加治屋健司+近藤學+高桑和巳訳、月曜社、2011)pp.101-115
参考資料
・谷川渥「絵画の時間論 序説」(中村高朗+虎岩直子編著『記憶と芸術 ラリビントスの谺』法政大学出版局、2024、pp.54-69)
・東葛西1-11-6 A倉庫(Instagram):https://www.instagram.com/efag.css/
鑑賞日:2026/01/23(金)
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