会期:2024/02/06~2024/02/19
会場:ニコンサロン[東京都]
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2024/20240206_ns.html
台湾出身の林詩硯は2017年に来日し、東京藝術大学大学院の先端表現専攻修士課程を修了して、現在は同大学写真センターの助手を務めている。今回、ニコンサロンの個展に出品したのは、自らもその一人である、自傷行為を行なう者たちのポートレートとその周囲の光景である。会場には、6×6判のカラーフィルムからプリントされた作品、25点が並んでいた。
自傷行為をテーマにした作品は、行為そのものやその傷口の痛々しさを強調したものになりがちだ。だが、林はそれを注意深く避け、むしろ、メンタルヘルスの助け合いサイトで募ったという「傷を持っている方たち」の、それぞれの状況に対応したポートレートを「丁寧に一枚一枚撮影」していくことを目指した。その狙いはとてもうまく実現していて、見る者が拒絶されることなく写真の中にすっと入り込めるような、余韻を感じさせる作品に仕上がっていた。結果的に、林が感銘を受けたという韓国の人権活動家オム・ギホの「痛みの唯一の共通点は、他人と共有できない体験である。しかし、その共有できない痛みから生まれた孤独感はみんな同じだ」という言葉が、切実な実感をもって伝わってくるシリーズとして成立していたと思う。
いま赤々舎で制作中という写真集が展覧会に間に合わなかったことは残念だが、じっくりと練り上げてきた作品が、開花の時を迎えつつあるのはとてもよかったと思う。本作をひとつの契機として、自信をもって写真家としての次の一歩を踏み出していってほしい。
鑑賞日:2024/02/15(木)